プロローグ

プロローグ

 その日もいつもの様に何気ない日常の筈だった…。


 高校に通い勉強して、学校が終わると友達と遊んで自宅へと帰る。─普通の高校生男子の日常って大体こんなもんだよね?


 でも…その日だけは違ってたんだ…。いつもの様にいつもの帰り道を自宅へと帰る途中の事だ…。     

 代わり映えしないどこにでもありそうな普通の交差点に差し掛かった時、急に。まるで瞬間移動でもした様に─。


「…何?これっ…」


 辺りを見渡すと何もない真っ白な空間。


「…どうしてこんな所に?自宅近くの交差点だった筈なのに…何でっ…」


『それは貴方の命が尽きてしまったからです…』


 ─急に目の前に綺麗な女性が現れて唐突にそう言ったんだ。女性の背には羽がはためいている…。その風貌から察すると…神?女性だから女神?


「じゃあ…貴女は女神様?」


 女性は頷き…


『その通りです…。人の子よ…』


 どうやら本物の女神様の様だ。神々しさを感じる…。


「で、では女神様…。先程僕の命が尽きたと仰いましたが、どうして?」


『それは…』


「ごくっ…」


 思わず僕は唾を飲み込んでしまう。


『私が愛車で跳ねちゃった!テヘッ♪』


「…テヘッ─じゃないんだよ!?何言ってんのお前ぇ!?」


『め、女神である私に向かってアンタこそ何言ってるのよ!口の聞き方には気を付けなさいよね!』


「─いやいやいや、お前が俺を跳ねたんだろうがぁぁ!」


『ついよ!…ついっ!下界を愛車に跨がり超スピードで見て回ってたらちょ~っと居眠りしちゃって、アンタを跳ねただけでしょうが!?』


 くっ…コイツ…見た目だけは可愛くて綺麗だけど性格が最悪だ…。そもそもコイツが居眠り運転さえしなければ…。とにかくコイツじゃあ話にならないんじゃないか?


「…責任者を出してくれ!アンタじゃあ、話にならない!」


『そ、それは…わ、私が責任者よ!私以外居ないし~…みたいな感じだし~…ぴゅ~ぴゅ~ぴゅ~…』

(こんな事上にバレたらどうなる事か…ブルブル…考えたくもないわね…)


 コイツの反応…何か隠しているのは間違いないんだけど…。下手くそな口笛迄吹きやがって。くっ…なのにどうにも出来ないとは…


「…これから俺はどうなるんだ?」


『よくぞ聞いてくれたわね!本来ならあの世にさよなら~なんだけど、今回は特別に私が管理する異世界にご招待してあげる!』


「…なぬっ!?異世界?」


 な、何ですとー!?い、異世界!?異世界ってあの!?


『人の世でも流行ってるでしょう?ラノベやらアニメやらで出てくる異世界よ異世界!』


「マジ…か…」


『マジよ、マジ!』


「…転生特典もあるのか?」


『ふふふ…そんなの当たり前だのク○ッカーよ?』


「…ち、ちなみにその異世界は魔王とか?」


『─万事抜かりないわ!魔王もちゃんと居るし、何より種族が幅広いし、いわゆるなりたい職業も幅広いわよ?私が作った世界なのよ?エッヘン!!!』


 ま、マジか!?俺が勇者とかになれるのか?異世界がホントにあるなんて…。


『それに…イケメンに生まれ変われるわよ?どうせ童貞だったんでしょうし…前の体は使い物にならないし…ほらっ、そこに落ちてるでしょ?』


 女神が指指ゆびさした方を見ると無造作に俺が落ちている…。それも悲惨な姿で…。最早原型も留めていない程だ。言い方も気に喰わないし、軽く目の前の女神に殺意が湧くのだが?童貞だから何だよ!?どうせ童貞だよ!童貞舐めんなっ!!!


 ぐっ─と、湧き上がる怒りを必死に押さえ込み…


「…な、なれる職業はどんなのがあるんだ?」


『任せロリ!!!これよ!』


 ババーンとでも擬音が付きそう感じで偉そうなポーズを女神がとると、女神の体が光り、俺の目の前にはモニターの様な物が現れた。モニターを見てみると、定番の勇者やら賢者やらの職業が見てとれる…。


「すげぇ…」


『ふっふっふっ…もっと私を褒め称えなさい!気分が良いから教えてあげるけど職業をタップすれば詳細も見られるわよ?凄いでしょっ、私!もっと褒め称えていいんだからね?』


 こ、この野郎…。すぐ調子に乗りやがる。と、とにかく今は…


「…選べる職業は1個か?」


『そんなの当たり前でしょ?』


 何言ってんのコイツみたいな目は止めろ。念の為聞いただけだろうがっ!



「…それにしても…迷うな」


 モニターをタップして詳細を見てみて本当に良かった…。そして気付いた…。何気に使えねぇーんだけどっ!?勇者と言えば大体最初から万能の筈だろう!?何だよこのスキル…。全て仲間が居ないと使えないスキルばかりだし、万能なんて程遠いし、賢者なんて…賢さ300以上から魔法が使えるってどう考えてもおかしいだろう!?待てよ…もしかして…最初から賢さとかの数値はチートなのか?


「…ちょっと聞きたいんだけど、レベルとか最初からMAX、ステータスもMAXなのか?」


『そんな訳ないでしょ?何言ってんのアンタ?レベル1からに決まってるでしょ?チートなんてあげるわけないわ!そういうの私嫌いなんだもん。すぐ最強なんて何の面白みもないでしょう?』


 はい…違いました…。だとするここはかなり慎重に決めないと、異世界に行ってすぐに死ぬ事になる…。




******


~2時間後~


『ちょっと!?いつまで掛かってるの?時間掛けすぎよぉ!私も忙しいのよ?』

(上の者にバレたらヤバいっていうのにぃぃ)


「黙ってろ!俺にとっちゃあ一生を左右するんだぞ?それにどの職業も欠点ばかりでクソじゃねぇかぁぁぁー!これ作った奴は馬鹿じゃねぇの?」


『私…が作ったモノを…クソ?馬鹿?』


「職業漫画家って…。100歩譲って異世界で漫画書く迄は許せるけど、漫画書ける様になるのがレベル50って、レベルどうやってそんなに上げるんだよ!?Gペンか?初期装備のGペンでモンスターと戦うのか!?意味分かんねぇーよ!Gペンの先が拳銃の弾みたいに飛んでいくのか!?Gペンで攻撃する前に死んでしまうわっ!!!」


『…飛ぶ訳ないでしょっ』


「─だろう!ホント使えねぇ~…」


『…そうね…。もういいわ…』


「…えっ?」


 女神の体が怪しく光輝き始めた…。やべっ!つい!つい言い過ぎた!?だって、ホントに使えない職業やスキルばっかりなんだぜ?思ってた異世界転生じゃないしさ…。


『…そのままあっちに送ってもいいのだけれど…情けよ…。─よし、何の職業か忘れたけどこれでいいか!ほいっ!』


 ─女神はそう言いながら俺に向けて光を放つ。光が俺を包み込み…


『じゃあ、2度と会う事はないだろうから達者でね?』


 俺の体が消えていく…。俺の体を包み込む光に吸収されるように…。まさか…やりやがったな!?勝手に職業決めて異世界転生させるのか!?


「なっ…こ、このクソ女神がぁぁぁぁ!!」


そして俺の意識は薄れていったのだった…。


『ふぅ~…。ようやく一段落出来るわね…。それにしても、自分で言うのもなんだけど色事師って何の職業だったかしら……。まっ、良いか!それよりも何だか疲れちゃったし一眠りしよ~っと…』



色事師いろごとし…それは歌舞伎で、色事の役を得意とする役者の事。 濡れ事師とも呼ばれる。 そして情事にたくみな男や女たらしの事。

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