第25話 胎動
「栄養ブロック」を口の中に放り込む。たちまち口の中が砂漠と化す。
無理やりそれを口にした青年は、終始笑顔を絶やさなかった。手にはノートパソコンの入ったバッグを手にしている。銀髪で埃の被った黄色いパーカーを着ていた。
と、ヘリの音が近づいてくる。そのヘリは一定の距離を保ったまま、青年を舐め回すように巡回した後、高度60メートルでホバリングした。
「目標確認、目標確認」
ヘリの無線がどこかへ呼びかけている。青年は目の上に片手でひさしを作る余裕があった。遠くを見ると、ゆらぎの奥から軍隊のようなものが見受けられた。それは盾をもった自衛隊だった。つまり自衛隊に青年は囲まれているのだった。
特に興味のないといった様子で、青年は前に立つ喫茶店を目指して歩き出した。自衛隊の軍団はそれを合図ににじり寄ってきた。気にせず喫茶店に入る青年。
喫茶店の中にはスーツに皺の入った男が一人、4人座りの席にポツンと座っていた。従業員の少女が2人、緊張して立っている。店内を一瞥した青年はニコニコしながらスーツの男の向かいに座った。
スーツの男は神妙な面持ちで言った。
「なぜ俺なんだ」
「蛙谷(かえるだに)と呼んでいいのかな?」
そう言いながら青年はバッグからノートパソコンを取り出した。
「ああそうだ。蛙谷だ。だからなんで俺なんだ?」
「とぼけなくていいよ。銃の横領してるのは分かってるんだから」
「何の話だ」
「だからとぼけなくていいってば」
青年は手を挙げた。
「オレンジジュース!」
従業員の少女は慌てて厨房に消えていった。
青年は伸びをして、ノートパソコンにしばらく集中した。
その間、「おれはリンゴジュース」と男も注文していた。
「ルール1、wifiを切ったら全ての爆発物を爆発させる。」
男は震えながらタバコを取り出し言った。
「ああ」
その時、ピーピーという甲高い音が鳴り出した。
「何だ、この音は!?」
青年はノートパソコンのボタンを押すと、その音は消えた。
「ルール2、この音がなって1分以内にボタンを押して解除しないと、とある場所で爆発が起こる仕組みになってる」
「俺は横領なんてやってない!」
「お飲み物です…」
男は従業員が持ってきた飲み物を、ひったくるように奪い取り喉を潤した。
「ルール3、僕の機嫌を損ねたら1箇所爆発させる。」
「勘弁してくれ、なんで俺なんだ、俺は純粋な刑事だ」
「証拠は握ってる。僕らは君を選んだ。今更何言っても遅い。」
青年はそう言うとヘッドセットをおもむろに付けた。
「あーあー。どう『A』聞こえる?良かった聞こえるね」
青年は誰かと喋っているようだった。
「さあ」
青年は両手を広げた。
「僕の名は十破豆(トパーズ)。さぁゲームを始めよう!」
蛙谷という男は片手で顔を覆うしかなかった。
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