第2話 2年前

2年前―――― 7月28日。


相変わらずの蒸し暑い日が続いていた。コーラの瓶が散乱した部屋に少年が一人、机のある椅子に座って一生懸命作業に勤しんでいる。

「よし、と」

少年は銀髪をクシャクシャしながら冷たいコーラに口をつけた。黄色いTシャツは埃まみれで、まともにシャワーを浴びているかいささか疑問だった。

少年がPCのエンターキーを押すと、きさらぎネット銀行の顧客リストが一斉に現れた。さらにエンターキーを押すと、顧客の残高から1円づつ引き出され始めた。顧客は数百万人いて、一人1円でも数百万円になる。全員から引き出した少年は、集めたお金を別口座にすぐさま振り込んだ。再びコーラの瓶に口をつける。

「あーーつまんない!」

少年は椅子からよじれ落ち、近くにあるソファへとねじり込んだ。

「暑いし、やる気も起きなくて最悪ー!」

少年はこれ以上ないくらいだるい体でソファに寝転がっていた。出来ることと言えばコーラを飲むことと、テレビのリモコンをいじることぐらいだった。テレビをつけると緊急特番が組まれていた。イベントが毎日行われている大きな施設「東京ビッグスクエア」が何者かによって爆破されたというニュースだ。専門家がらしいことを喋っている。こういう事件が起こると大抵の人はけしからんと思うはずだ。しかし少年は違った。

心地よい興奮で頭が満たされてくるのだ。思わず起き上がってテレビに釘付けになる。コーラを飲みながら思った。僕はサイコパスなのか。サイコパス同士、お互い惹かれ合っているんじゃないかと。爆破した人物はどんな人物なんだろう。なんの目的でもって爆破したのか。考えるだけでドーパミンが溢れて止まらない。少年は冷蔵庫に手をやり、瓶のコーラを取り出した。

コーラの瓶に囲まれた部屋で一人興奮している少年の名は十破豆(トパーズ)、16歳の無邪気なハッカーだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る