第2話 屋上の出会い
「であるからして、この作者は表現方法に擬人法を用いることで我々読者に登場人物の気持ちを伝えているのです」
なるほど。やけに擬人法を使ってんなって思ってたがそういう意図があったのか。やるじゃねぇか芥川龍之介。
物語の筆者に感銘を受けながら俺は教科書を読み進める。
「では次のページをめくってください。42ページ三章節目の—————」
講師の先生がひと段落終えたところで天井に備え付けられたスピーカーからチャイム音が響き渡った。
「では今日の授業はここまで。明日は今日のまとめから入っていきたいと思います」
ただいま午前10時45分。2時間目の授業を終えた校内は休み時間というオアシスにありつき
俺の通っている高校は
ただ、勿論騒ぐしか脳のないDQN達も
「俺昨日アヤと付けないでヤッたわww」
「マジ?デキたらどうすんだよ!!」
「大丈夫大丈夫!!そん時はパパになるしよ」
などと動物園の動物顔負けの勢いで廊下では学生がはしゃいでいる。たまに自分の子孫を
「そう言えば今日じゃね?初華が学校に来るって日」
「そうそう。だからコイツらみんな廊下に出てんだろ?なんせ馬鹿しか出ないうちの高校から出た超人気アイドル様だもんな」
アイドル様?へぇ、そんなのがこの高校にはいるんだ。
うちの学校にも芸能界に精通する人間はいた。女優やら俳優やらモデルやら。玉の
いや、俺には関係ない話か。
男子トイレに入ったその瞬間。
そのことを察した瞬間。俺は
▼▽
あれから2時間が経った。4時間目の数学の授業を終えた俺は昼食のチャイムを合図に屋上へ向かった。以前通っていた高校とは異なりここ筑前高校は屋上が開放されている。まぁ元々の校則が
偏見だが屋上に
「学校で唯一最高な時間だよな。今」
そうしてタバコを一服‥‥するわけではないが登校途中に買った焼きそばパンを口に頬張ると至福のひとときとばかりだ頰を緩ませた、その時。
開くはずのない屋上の扉が錆びた鉄の摩擦音と共に開放された。まさかDQNが?と恐れビビりながら屋上の入り口へと目を向けた。
「あれれ先客さん?おっかしいなー。ここなら人いないと思ったんだけど」
まさかのお前居ないで欲しかった発言をしたのは、今まで見たことのない初対面の女子高生だった。数日とはいえ同学年の生徒の顔はだいぶ覚えた方なのだがコイツの顔には見覚えがない。
とりあえず俺と同族(陰キャ)ではないな。顔がなんていうか‥‥うん。レベルが違う。他の女子生徒が
ん?あ、そうかコイツが。
「アイドル様」
「え?」
なるほど。確かにこれはすごいな。前の高校にいた三流女優、アイドルなんかと比べ物にならないくらい。うん、かわいい。
「いやなんでもないです。忘れてください」
それだけ言って俺は食べかけの焼きそばパンを片手に再び屋上から見渡せる景色を見渡した。理由は単純、照れ隠しである。
可愛いすぎんだろ、なんだこれ。こんなのが現実にいていいのか?まるでアニメからくり抜いて出てきたようなクオリティにドギマギしている。
「ね?おーい、聞いてる?」
「‥‥‥‥」
「聞こえてるよね?ね?」
「‥‥‥‥」
「ふぅぅぅぅぅゔう!!」
「は?」
何を思ったのかそいつは俺の耳横で息を思いっきり息を吸い始めたかと思うと、思いっきり
「何がしたいんだよお前」
「待って!今死ぬ!!」
「死ぬ!?急に!!?」
まさかの死ぬ宣言に驚いていると、息が落ち着いたのか元々持ってきていた天然水のボトルを口にして小さく息を吐いた。
「ふぅ〜ほんと死ぬかと思った。咽せてる時ってほんとに死ぬって思わない?あとお腹痛い時とか」
「いや、まぁわかるけど。そんな大袈裟にやるものかかよ」
「あれ君、どっかで会ったことある?」
「人の話聞けよ!!」
なんだコイツ。いや、なんだコイツ!?世界が自分中心に回ってるって思ってないか?急に来たと思ったら思いっきり咽せて、死にかけて、忙しい奴だな。
「先月転校してきたんだ。だから会ったことも俺のこと見かけたこともないと思うぞ」
「あ、転校生?そうなんだ。じゃあ気のせいだね」
すると彼女はポケットに手を突っ込むとコンビニで買えるチョコレート菓子を取り出した。
「何それ?」
「ん?お昼ご飯だよ。カロリー制限してるからこれくらいしか食べれないんだよねー」
「カロリー制限?あーそっか。アイドルなんだっけ?お前」
「なんだっけって‥‥私のこと知らないの?」
よく見て?とばかりに俺の目を
本当に知らないことを態度で示されると彼女はガックリと肩を落としてチョコレートを一つ頬張った、
「そっかー私もまだまだだな」
「悪い。アイドルに興味がないというかあまりテレビを見ないからかもな。スマホもばあちゃんと連絡取るぐらいだしネットも使ってないんだよ」
「へぇ、今どき珍しいね?絶滅危惧種ってやつだ」
絶滅危惧種って‥‥さっきから思ってたけど独特なワードチョイスをするな。こういうユニークな人間が芸能界で生きていけるのだろうか?
「ま、今はファンじゃなくても私のことを知ってる人はいると思うけどね」
「それってどういう意味?」
彼女との会話に集中していると校内のチャイム音が屋上まで聞こえてきた。これは昼食の時間が終わり、これから清掃の時間が始まる合図だ。
「またどこかで会えたら話そっか。あ、名前聞いてないね。聞いてもい?」
「2年4組冬月
「2年生か、同級生なんだね。私は一角初華!!よろしく〜!」
不意打ちに彼女は俺の左手を握ると、一言「バイバイ」とだけ言い残して屋上から姿を消した。ほんのりと温もりが残った左手を見つめると、今まで小馬鹿にしていたアイドルの握手会に並ぶ人達に向けて謝罪した。
「すげぇなアイドルって」
何の変哲もない数分の会話だというのに、俺の心は今までにないほど満ち足りていた。
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