ラストウィザード

澄海

プロローグ

あきらかに魔獣は魔力を増している。だが、それはなぜだ。

漆黒の被毛を雄風で靡かせながら黒猫はぐっと目を細めた。

 魔獣の住む峡谷の上空では稲光が交差し、空にいくつものレバスが走る。

 黒猫が立っているのは峡谷からかなりの距離がある岩棚のうえだ。

 それでも、魔獣の住処の上空で突風が吹き荒れているのが見え、腹の底に響く雷鳴がとどろき、風の吠える声が聞こえる。

全て、ありとあらゆるものを自由に操る能力を持つ、魔獣の仕技だ。

しかし、今まで魔獣があからさまにこれほどの魔力を見せつけることなどなかった。

 魔法猫の魔力のほうが、魔獣の魔力よりも強い。

 魔法猫である黒猫が存在する限り、魔獣の力は魔法猫の魔力によって抑えられ、枝が揺れるほどの風を起こすことくらいしかできない。

 ――そのはずだった。

 しかし今、その魔力のつり合いが失われようとしている。

 

 魔獣の力を抑え込み、彼がこの世界を支配することを阻止することこそ、魔法猫の天命であった。

 魔法猫として、務めは必ず果たさねばならいない

  ひとたび魔獣が暴走をはじめたら、この世界は秩序は崩れてしまう。

 この世界に住むありとあらゆる生き物が魔獣に苦しめられることになるだろう。

 そんなことになることを許すわけにはいかない。

黒猫の頭の中にはある計画があった。 実行すれば、自分は大きな代償を払うことになるが、確実に魔獣の暴走をくいとめることはできる。

しかし、まずはその計画が実行可能か確かめなければならない。

黒猫はきびすをかえし、自らの住処である洞窟に入り、その姿は闇にとけこんだ。

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