第90話 間話 ダークエルフの恩返し(後編)
宰相の屋敷内外を探るダークエルフたち。
ノエル・エトワールを暗殺しようとした陰気な男を捜したが、なかなか見つからなかった。
宰相に怪しい動きはない。
そこで、ダークエルフたちは、執事をマークした。
宰相の屋敷ではメイドに扮したエクレールと若いダークエルフの男女が執事の動向を監視し、屋敷の外では中年のダークエルフたち三人が執事の尾行についた。
――二週間後。
執事が夜一人で出掛けた。
(クサイな……)
ダークエルフのエクレールは、執事の行動に怪しさを感じた。
執事は常に宰相のそばにいて、宰相をサポートしている。
宰相が貴族の夜会に出席するならいざ知らず、遅い時間に外出するのは珍しい。
それも執事の単独行動だ。
ダークエルフのエクレールは、闇魔法で人族の若い男に化けて執事の後を追った。
屋敷の外に出ると、すぐに中年のダークエルフが合流した。
中年のダークエルフは、人族の商人に化けている。
人族の商人に化けた中年のダークエルフは、素知らぬ顔でダークエルフのエクレールが化けた人族の冒険者に近づく。
そして、歩きながら指でサインを送った。
(どうした?)
(怪しい)
(了解した)
二人は指先のサインで意思を通じ尾行を続けた。
執事は酒場に入った。
二人もあとに続く。
酒場は庶民的な店で、とても賑やかだ。
冒険者や商人など平民中心の店で、エールのジョッキや大皿料理を持った店員が忙しく働いていた。
商人は一人でテーブル席についた。
エクレールと中年のダークエルフは、少し離れた席に陣取る。
二人とも人族に化けているので、酒場に溶け込んでいた。
執事がエールを一杯飲み干した辺りで、執事のテーブルに一人の男が近づいた。
エクレールの目が大きく見開かれ、背中に電気が走る。
(アイツだ!)
執事のテーブルに近づいた男は、エクレールに暗殺を依頼した陰気な男だった。
エクレールが立ち上がろうと腰を浮かせた。
中年のダークエルフが、エクレールの手を抑え小声で問う。
「落ち着け。どうした?」
「あの男だ!」
「何!? ヤツか!?」
「そうだ! 間違いない!」
中年のダークエルフは、店員に料理を注文しながら、執事のテーブルを観察した。
(陰気な雰囲気の男……。あの男が我が主ノエル・エトワールに害をなす男か……!)
中年のダークエルフは一瞬殺気をみなぎらせるが、すぐに呼吸を落ち着け殺気を内に押さえ込む。
「仲間を集める……」
中年のダークエルフが店を出た。
エクレールは、人族の男に化けたまま執事と陰気な男の見張りを続けた。
エクレールは、一連の出来事を思い出していた。
陰気な男が暗殺を依頼したことは仕方がない。
政治的な理由から邪魔者を消す。
王都であれば、そういうこともあるだろうと、エクレールは考えた。
結果的にエクレールは、ノエル・エトワールという良い主を持つことが出来たので、陰気な男が暗殺を依頼したことについて怒ってはいない。
エクレールが許せないのは、陰気な男が、嘘をつき、妹ショコラの命を危険にさらしたことだ。
陰気な男は、妹ショコラの病気を治せる高級薬エリクサーがあると嘘をついた。
エクレールの弱みにつけ込んだ。
幸い、ノエル・エトワールがエリクサーを提供してくれたので、妹ショコラは一命を取り止めた。
だが、一歩間違えれば、エクレールの最愛の妹ショコラは病に侵され命を失っていたのだ。
――今すぐにでも斬りかかりたい。
エクレールは、自分の気持ちをグッと抑えた。
執事と陰気な男は、ボソボソと何事か相談をしている。
二人はロクに酒を飲まず、料理にも手をつけず、ニコリとも笑わない。
およそ酒席とは、かけ離れた雰囲気である。
(どうせ、悪巧みをしているのだろう……)
エクレールは、エールを口にしながら内心で悪態をついた。
人族の商人に扮した中年のダークエルフが戻ってきた。
小声でエクレールに告げる。
「仲間を集めて来た。二人が外に出たらやるぞ!」
エクレールは、ジョッキのエールを飲み干し野獣のように笑った。
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