第84話 叙爵の儀式
午前中に、フォー辺境伯領の領都デバラスで式典を終え、我がエトワール伯爵領の領都ベルメールへ移動した。
午後からは、準騎士爵への叙爵とお祝いだ。
叙爵といっても決まった手順はない。
思い出してみれば、俺が国王から叙爵された時はヒドイ扱いだった。
今回は俺が爵位を与える側だ。
良い思い出にしてあげようと、簡単ではあるが叙爵式を行うことにした。
場所は領都ベルメールの広場だ。
広場に広めの演台を用意した。
司会進行を務める執事のセバスチャンと爵位を授ける俺が演台に上る。
続いて、見届け人としてフォー辺境伯とジロンド子爵が演台に上った。
見届け人などという制度はないのだが、俺が勝手に設定した。
南部の大物貴族二人が叙爵に立ち会うというのは、なかなかないことだろう。
式の権威付けにもなるし、エトワール伯爵家のバックにはフォー辺境伯とジロンド子爵がいると他の貴族に影響力を見せつけることが出来る。
ここには多くの南部貴族が集まっているのだ。
良い意味で機会は利用しないとね。
「これより叙爵の儀式を行います! 準騎士爵に叙爵される者は前へ!」
執事のセバスチャンが大きな声で呼びかけた。
まず、ディー・ハイランドが演台に上った。
叙爵の順番は、道普請の施工距離順、つまり割普請の順位だ。
一位のディー・ハイランドは、人と予算を上手く使って一位を獲得した。
ディー・ハイランドは、いつもの笑顔で演台に上り片膝をつく。
執事のセバスチャンが、ディー・ハイランドに問いかける。
「ディー・ハイランド殿。あなたはエトワール伯爵家の騎士になり、エトワール伯爵家に忠誠を誓いますか?」
「誓います」
俺は右手に持った剣で、ディー・ハイランドの肩を叩く。
これはヨーロッパ騎士の儀式『アコレード』だ。
叙爵に決まった手順がないので、取り入れてみた。
「ディー・ハイランド。道普請での采配は見事でした。これからあなたの手腕を領地開拓で生かして下さい」
「ありがとうございます」
俺はディー・ハイランドに言葉をかけながら、美しい装飾の入ったナイフを渡す。
このナイフは、ドワーフの鍛冶師が鍛え、エルフの職人が柄や鞘を拵えた美麗な一品だ。
事前にリーダーたちに段取りは説明してあったが、リーダーたちにナイフは見せていない。
ディー・ハイランドは、初めて見る美しいナイフに息をのんだ。
「これは美しいナイフですね……」
「このナイフが叙爵の証だよ。大事にしてね」
「ありがとうございます!」
ディー・ハイランドがナイフを受け取ると立ち上がって、広場に集まる人たちにナイフを掲げて見せた。
同席している南部貴族やベルメールの住民から大きな拍手が上がる
ちなみにディー・ハイランドは、道普請で一位だったので賞金は一千万リーブルだ。
ディー・ハイランドが、美味しいウイスキーを生産してくれることに期待しよう。
続いて二位のアラン・バロールが演壇に上がる。
アラン・バロールは、ディー・ハイランドをライバル視していて、道普請で猛追したが惜しくも及ばず二位だった。
賞金は八百万リーブル。賞金を元手に旨いワインを作ってくれ。
アラン・バロールは、いかにも貴族といった流麗な動作で片膝をつく。
アコレードを行うと感激に肩をふるわせていた。
アラン・バロールの性格だと、こういう儀式は大好物だろう。
「ご当主様に我が全てを捧げます!」
なんて張り切ったことを言っていた。
アラン・バロールが演台から下りると、フォー辺境伯とジロンド子爵がひそひそ話を始めた。
「なあ、ジロンド子爵。こういう式も良いモノだな!」
「ええ。騎士の顔つきが違いますよね。ウチもやろうかな?」
やった方が良いと思うよ……。
だってさ、準騎士爵や騎士爵の叙爵なんて、『オマエは今日からウチの騎士だ!』の一言で済ますそうだ。
準騎士爵や騎士爵は、国王に仕える貴族ではない。
貴族に仕える貴族――つまり陪臣だ。
他国との戦争では最前線で戦死する者も多く、魔物との戦闘で命を落とす者も多いそうだ。
国王に仕える貴族と違って死亡率が高い――つまり消耗品扱いだ。
それでも、騎士は名誉のある職業であり、貴族として世に認められ社会的地位が高いから希望者が沢山いる。
替えが効くのだ。
その為だろうか、転生者の俺の目から見ると、騎士爵の扱いは悪い気がする。
もうちょっと大事に扱ってあげても良いかなと思うのだ。
そこで今回の叙爵の式典だ。
『エトワール伯爵家は、騎士を大切に扱ってくれる』
そんな声が広がれば優秀な人材が集まるかもしれない。
開拓できる土地は沢山あるのだ。
騎士になりたい優秀な人! カモーン!
三位は、シーモ・ウーマック。
賞金は、六百万リーブル。
シーモ・ウーマックは、『へへへ。せいぜい、がんばらせていただきやす』といつもの調子で笑っていた。
四位以下は、一律三百万リーブルのボーナスを支給した。
こうして俺は新たに十三人の部下を得た。
彼らを準騎士爵として従え、エトワール伯爵家を盛り上げていかないと!
「新たに誕生した十三人の騎士に、神の祝福を!」
俺の言葉で儀式は終了した。
叙爵の儀式は大成功だ。
領都ベルメールの住民は大いに盛り上がり、新たに準騎士爵になった十三人は誇らしげな顔をしていた。
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