第80話 領地分配 アラン・バロール
一発目の領地候補地は、シーモ・ウーマックの領地と決まった。
ドライフルーツとオリーブオイルの一大産地に化けてくれるかもしれない。
非常に楽しみだ。
その後、俺たちは騎竜に乗り、次々と領地候補地を訪れた。
だが、リーダーたちは自分の領地をなかなか決められないでいた。
領地候補地は、俺の生産スキルで整備をしていないから自然のままなのだ。
うっそうと生い茂る魔の森。
畑を耕そうにも固い地面や邪魔な岩。
誰が見ても開拓の困難さが想像出来る。
さらに……。
「魔物? ええ、もちろん! ここは魔の森ですから、当然魔物が出ますよ。この辺はオークですね」
魔の森の中にある領地候補地に訪れると、冒険者パーティーと出会った。
リーダーたちが辺りの様子を冒険者パーティーに聞くと、さらっと答えが返ってきたが。
冒険者パーティーの実力ならオークを狩れるのだろう。
オークは食料になる。
歩く豚肉である。
だが、一般人、これから出来る開拓村の村人にとっては、脅威になる魔物だ。
リーダーたちの顔が引き締まる。
失敗したかな……?
俺が生産スキルで開拓村の候補地を整地してから見せた方が良かったかな?
『やっぱりエトワール伯爵に仕えるのは止めます』
なんて言われたら困る。
俺は、すぐにフォローを入れた。
「領地を引き渡す時は、もうちょっと整備して渡すから安心して下さい! 開拓村を作るスペースや畑を作るスペースは用意するから!」
リーダーたちの表情が明らかに緩んだ。
やはり不安を感じていたんだな。
開拓村を立ち上げる時は、しっかりフォローしよう。
次の領地候補地は、盆地の入り口にあたる場所だ。
この盆地の中は、入り口付近しか調査していない。
盆地の入り口に開拓村を作って、冒険者たちに盆地の中を調査してもらいたい。
ここは川が流れているので、水の手は良い。
ただ、地面は痩せているのだ。
南部貴族のおっさんたちの評価も厳しい。
「ここはどうかな?」
「畑をやるには向かんな……」
「日当たりは良いのだが……」
ダメかな?
ここに誰か村を作ってくれると、冒険者の拠点になってありがたいのだが……。
すっとリーダーの一人が手を上げた。
伊達男のアラン・バロールだ。
アラン・バロールは、つばの広い帽子をかぶり、なかなかオシャレな出で立ちだ。
「ご当主様。この土地は、わたくしアラン・バロールにお与え下さい」
おっ! 名乗りを上げてくれた! 凄くありがたい!
「アラン・バロール。名乗りを上げてくれたのはありがたいが、ここで大丈夫か? 畑には向かない土地のようだが?」
「ええ。しかし、ブドウ栽培には向いた土地です。ご覧下さい。この土を! 水はけが良いのです! そして日当たりも良い!」
アラン・バロールは、さんさんと降り注ぐ日差しに目を細める。
「なるほど……ブドウ栽培か! すると、アラン・バロールがやりたいのは――」
「ええ! ワインです! 私はここでワイン造りにチャレンジしたいのです!」
「「「「「おお!」」」」」
アラン・バロールの宣言に、リーダーたちと南部貴族のおっさんたちから声が上がる。お酒大好き人間がそろっているからな。
そうか、ワインか……。
エトワール伯爵家支配地域でワインの生産が行われるのは、非常に良い。
とにかくエールとワインの消費量がハンパないのだ。
南部貴族のおっさんたちが飲む。
冒険者が飲む。
エルフが飲む。
獣人が飲む。
ドワーフがしこたま飲む。
ダークエルフが飲む。
マーマンが飲む。
この前は、酔っ払ったマーマンが海に流されて、ダークエルフが船で救助したと報告が入った。
河童の川流れならぬ、マーマンの海流れとか……何やってんだよ!
とにかくエトワール伯爵領へのワインは圧倒的な輸入超過、ゼロ百どころか、ゼロ百万くらいの勢いで、秘書のシフォンさんも苦笑いだ。
この世界は娯楽が少ないし、食事のバリエーションも少ない。
必然的に酒。
南部はエールかワインだ。
アラン・バロールがワイン造りに挑むのを俺は応援したいが、この土地で本当にブドウ栽培が出来るのだろか?
ワインに適したブドウが育てられるのだろうか?
俺は南部貴族のおっさんたちに聞いてみることにした。
「どなたか自領でワインを生産している方はいらっしゃいませんか? アドバイスをお願いします!」
一人のおっさんがスッと手を上げた。
「我が領地で大規模なブドウ栽培を行っている。そこの若いのが言う通り、ここはブドウ栽培に適しているぞ。後は、昼と夜の寒暖差があれば最高だ」
「寒暖差ですか?」
「うむ。昼と夜の寒暖差が大きいとブドウが甘くなるのだ。甘いブドウの方が、旨いワインになるのだよ」
甘さ……糖度ってヤツか!
寒暖差が大きいと糖度が高くなることを、このオッサンは経験で知っているのだ。
ふむ、勉強になるな。屋敷に帰ったらメモしておこう。
「そこの若いのは、バロール騎士爵の倅だろう? バロール家はワイン造りの名門だ。上手くやるだろう」
へえ、それは知らなかった。
俺はアラン・バロールに聞いてみる。
「アラン・バロール。ご実家はワイン造りの名門なのか?」
「はい。南部でも有数のワインを生産していると自負しております。今回、ブドウ栽培が得意な農民とワイン造りの職人を連れてきております」
それなら、ワイン造りのハードルはグッと下がるだろう。
美味しいワインの期待大だ!
俺はアラン・バロールに許可を出す。
「よし! では、この土地は、アラン・バロールに与える。ワイン造りは、私も支援しよう」
アラン・バロールは、芝居がかった動作でスーッと帽子を脱ぐと、ひざまずいた。
「ははっ! ありがたき幸せ!」
これでワインが自給できる。
マーマンには、酔っ払って海で流されないようによく注意しておこう。
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