第75話 予算の使い道
翌日、昼食を食べた後、俺はフォー辺境伯と連れだって、工事現場の視察に出た。
最初に訪れた工事現場は昼飯時で、作業をする男たちが食事に群がっていた。
今回の道普請は参加する人数が多い上に工事区画も広い。
我々エトワール伯爵家で食事を用意するのは難しい。
そこで、各リーダーに肉、野菜、小麦を支給して、各班で食事の支度をするように申し渡してある。
果たして、昼食風景はどんな感じだろう?
「ここの現場は普通ですね」
「ああ、男でも料理が出来るヤツはいるからな」
フォー辺境伯と話ながら視察をする。
一つ目の班は、大鍋で肉と野菜のスープを作って、たき火を使って簡素なパンを焼いていた。パンというよりはナンに近い感じだ。
力仕事の後で腹ぺこの男たちは、旨そうに食事をしていた。
昨日、ここの現場はもめていて、ろくに道路工事が進んでいなかったが、今日は違う。
きちんと土嚢を積んで工事を進めていた。
「昨日よりは、まともに現場が動いていますね」
「ああ。ディーのヤツに段取りを聞いたのが良かったのだろう」
「次へ行きましょう」
工事が進んで平和な食事風景を見て俺は満足し、二つ目の現場に移動した。
「あれ? ここはちょっと料理が凝っていませんか?」
「昨日見ていない顔が料理しているな……」
リーダーを呼んで話を聞くことにした。
ここのリーダーはフォー辺境伯の領地からやって来た騎士爵家の息子だ。
ほっそりとした丸刈りの抜け目がなさそうな男だ。
俺が料理について尋ねると男はニカッと笑った。
「へへへ。エトワール伯爵から予算をつけていただいたでしょう? 朝一でデバラスまで騎竜で走ってきたんでさあ。それで料理人を雇って、香辛料も仕入れたっつーわけですよ」
「へえ。予算を料理に使ったのか!」
なるほどね。
昨晩、各班に五十万リーブル渡したけど、この班は食事を充実させたのか。
俺はさらに深掘りして質問する。
「何で食事に予算をかけたのですか?」
「ウチは料理が得意なヤツがいなかったんですよ。それで、昨日はメシに不満がでやしてね。ほら、毎日のことでしょう? やっぱ食事は大事だと思うんですよ」
「そうだね。確かに美味しい食事を食べれば力が出るし、不満が抑えられるよね! 良いお金の使い方だと思いますよ!」
「でしょう! ヘヘヘ」
俺が褒めたことで、丸刈りリーダーは嬉しそうに笑った。
フォー辺境伯も自領出身者が良い仕事をしたので得意げだ。
「前の班はどんなことにお金を使ったか知ってる?」
「ああ、隣は酒を買ったと言ってましたね。頑張ったヤツには酒を飲ませるそうですぜ」
「俺のニンジン作戦を真似したのか!」
ほうほう。最初の班のリーダーも考えているんだな。
俺とフォー辺境伯は、話をしながら次の現場に向かう。
「なかなか面白いですね」
「ああ。競争になってるから、連中も必死なんだろう!」
次の現場で話を聞く。
三つ目の班のリーダーは、ボーナス方式でよく働いた人には小遣いを渡すことにしたそうだ。
四つ目の班のリーダーは、アラン・バロール。
昨晩、俺に予算が欲しいと告げた男だ。
食事は既に終っていて作業が再開されていた。
フォー辺境伯が工事現場を見て、楽しそうに声を上げる。
「おっ! 馬がいるな!」
「馬耕ですね!」
馬耕とは、馬を使って畑を耕すこと。
馬に専用の器具を牽かせて、土をおこすのだ。
馬が大きな櫛のような器具を引っ張り体格の良い男性が器具を抑える。
固い土がモリモリと耕される。
すると土嚢袋を持った者が、柔らかくなった土を土嚢袋に詰めていく。
「昨日ディー・ハイランドがやっていた方式を馬に置き換えたわけですね」
「そうだな。あれは農耕馬だな。農家から借りてきたんだろう」
「アラン・バロールに話を聞いてみましょう」
アラン・バロールを呼び話を聞く。
「はい。朝一でフォー辺境伯の領地へ行ってきました。デバラス近隣の農家を回って、馬を借りてきたのです。ディーに教わったやり方だと確かに効率的です。まあ、ちょっとシャクですが」
アラン・バロールは、ディー・ハイランドをライバル視している。
それでも、ディー・ハイランドが考えた段取りを取り入れたのは評価に値する。
「アランは立派だよ。効率的な仕事の進め方を取り入れる姿勢を評価するよ」
「ありがとうございます!」
アラン・バロールと色々話す。
他の班のリーダーとも、昨晩情報交換をしたようでアランは色々知っていた。
「そういえば、ディーは冒険者ギルドで作業支援を依頼したようですね。若い冒険者を雇うと言っていました。力仕事が出来る人間を増やすようですね」
「ほうほう」
各作業班に予算をつけたら、班ごとにカラーが出た。
料理人を雇う、酒を買う、小遣いを配る、馬を調達、冒険者を雇う。
ふむ……、現代日本の会社経営にあてはめて考えると、福利厚生、手当、設備投資、人材調達といったところだな。
配分した予算を、それぞれ考えて使っているようだ。
話の途中でアラン・バロールの表情が曇った。
言いづらそうに言葉を発した。
「あの……隣の班なのですが……ちょっと……」
「うん? 隣の班?」
隣の工区から怒鳴り声が聞こえてきた。
「テメー! ふざけた真似してんじゃねえぞ!」
一体何だ!?
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