第四章 国際都市ベルメールへ

第58話 海の魔物

 ――翌朝!


 エクレールたちダークエルフは六人で来ていた。

 領主屋敷のゲストルームに泊めたのだが、すぐにダークエルフの里に戻ると言う。

 朝食の後、俺の執務室でエクレールと打ち合わせた。


「馬車を乗り継いで行くのか? ウチのゴーレム馬車を貸そうか?」


「いや、大丈夫だ。船を近くの海岸に泊めてある」


「船か! 見たいな!」


 ここ領都ベルメールは、少し西に行けば海がある。

 将来的には、この町を拡張して海とつなげたい。

 となれば、船や港が必要だ。


 俺はこの世界に転生してから船は見たことがない。

 どんな船なのか、ぜひ見てみたい。


 俺たちは、早速、海岸へ行くことになった。


 俺、妹のマリー、執事のセバスチャン、ネコネコ騎士のみーちゃん、エルフのシューさんといういつものメンバーに加えて、ダークエルフの六人と一緒に海岸へ向かう。


 エクレールたちは、近くの海岸に船を止めていた。

 海岸は砂浜になっているので、船を砂浜に引き上げておいたのだ。


 白い砂浜に青い海。

 非常に美しい海岸なのだが……、なのだが……。


「あー! 船が!」


 エクレールたちが乗ってきた船が、海の魔物に襲われていた。

 魔物は真っ赤な大ダコだ!


 タコといっても魔物だけにデカイ!

 前世日本の遊園地でみたタコのアトラクションみたいな大きさだ。

 エクレールたちが乗ってきた船が気に入らないらしく、船に足を巻き付けて破壊している。

 ひょっとしたら、ここは大ダコの縄張りだったのかもしれない。

 多分、怒っているのだろう。

 大ダコの全身は赤くなっている。


 船は、大ダコに破壊されていて既に原型をとどめていない。

 ベキベキ! と鈍い音がして、エクレールたちの船は完全に破壊されてしまった。


 エルフのシューさんが、前に出た。


「みんな下がって。魔法を撃ち込む」


 俺たちは、慌てて距離をとる。

 シューさんは、背中に背負った魔法の袋から杖を取り出しくるくるっと回す。

 トンと杖を海岸につき、魔法の詠唱もなく、即魔法を発動した。

 一瞬目の前が光った!


「きゃあ!」

「うわっ!」


 ドーン! と巨大な音がして、みんなが悲鳴を上げる。

 雷魔法だ!


 大ダコから『シュー……』と音がして、煙が上がっている。

 おお……美味しそうな匂いが漂ってきたぞ……!


 大ダコはシューさんの雷魔法で絶命したようだ。

 シューさんが早足で大ダコに近づき、大ぶりなナイフで大ダコを切り裂く。

 取り出したのは、両手で抱えるほどの大きな魔石だ!


 シューさんは、大慌てで魔石を背中の袋に放り込むと、こちらにダッシュしてきた。


「下がって! もっと下がって!」


 何だろう?

 大ダコは、もう、倒したのに?


 シューさんの指示に従い。俺たちは海岸から離れた。

 海岸から離れ、森の中から様子をうかがう。

 白い海岸には、息絶えた大ダコがぐでっと横たわっている。


 隣のシューさんを見ると、明らかに何かを警戒している。

 俺がわけがわからないと首をひねっていると、若いダークエルフの男が沖を指さした。


「オイ! 何か来るぞ!」


 最初は遠くて何も見えなかったが、徐々に見えてきた。

 水しぶきが上がっている。

 何かが凄いスピードで海岸に近づいているのだ。


 ダークエルフの男が叫んだ。


「シーサーペントだ!」


 シーサーペントの姿形は細長い竜だった。

 これまた巨大な魔物で、胴体は大型トラックほどの太さだ。


 シーサーペントは、海から海岸に上がると大ダコにかぶりついた。

 モシャモシャと美味しそうに大ダコを食べている。


「シューさん。あれは?」


「シーサーペント。遠くで気配がしたから、ヤバイと思った」


「それで大急ぎで逃げて来たんだ……」


「多分、大ダコの匂いを嗅ぎつけた」


「あんな巨大な魔物が海にはいるのか……」


 俺はあんぐりと口を開けてシーサーペントを見た。

 シーサーペントは、嬉しそうに大ダコにかぶりついている。


 いや、まあ、大ダコは俺のモノじゃないから、食べても良いけど……。

 あんなデカイのいるんじゃ、海で船を操るのは命がけだ!


 俺はエクレールたちダークエルフが心配になった。


「エクレール。船に乗って大丈夫なのか?」


「シーサーペントは、かなり沖に出なければ出会わないぞ。海岸に出てくるのはまれだ」


「そうなのか……」


 シーサーペントが海岸に出てきたのは、南部だからだろうか?

 魔力が豊富な魔の森の土地が、海の方まで続いているのかもしれない。


「シューさん。シーサーペントも魔法で倒せないの?」


「無理。あれは一応竜種。竜種は魔法耐性があるから、魔法が効きづらい」


 なるほど、物理で殴るしかないのか。

 となればネコネコ騎士のみーちゃんだ。

 俺はみーちゃんをチラリと見た。


「さすがにあれだけ大きいのは無理ニャ!」


「そうですよね。すいません」


 まあ、常識的に考えて無理だよな。

 サイズが違いすぎる。


 ダークエルフのエクレールが、冷静に指摘した。


「食事が終れば、沖へ帰ると思う。食事が終るまで待とう」


「そうだな。がっついてるから、すぐに食べ終わるだろう」


 俺たちはシーサーペントが、大ダコを食べ終わるまで待つことにした。

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