第38話 南部貴族たちとの別れ
――翌朝。
俺たちは村の中央にある広場で野営をした。
というのも、貴族が使えそうな屋敷などなく、代官が使っていた屋敷は二年間使われていなかったのでボロボロになっていたのだ。
フォー辺境伯やジロンド子爵ら南部貴族たちと、今日でお別れだ。
彼らは、これから自領に帰る。
村の広場は、出発前の騎竜たちのいななきが響いている。
俺は姿勢を正し、南部貴族たちに別れの挨拶を告げた。
「みなさん。ここまでありがとうございました。みなさんのおかげで、無事に領地まで到着しました。みなさんとの友誼を忘れず、南部貴族として誇りを持ち、しっかり領地を治めます」
俺が頭を下げると、南部貴族のみんなから拍手が上がった。
代表してフォー辺境伯が、俺の肩をガッとつかみ言葉をかける。
「何か困ったことがあったら、相談しろよ! エトワール伯爵は、まだ、十三歳だろ? 無理をするな」
「フォー辺境伯。ありがとうございます。物資や食料の買い付けで、すぐにお邪魔すると思います」
「その時は、屋敷に顔を出してくれ。予約は不要だ」
「必ず!」
フォー辺境伯は北側のお隣さんになる。
我がエトワール伯爵領は、このオンボロ開拓村しかない。
フォー辺境伯の領都デバラスに、何度も訪問することになるだろう。
フォー辺境伯に入れ替わって、ジロンド子爵が挨拶に来た。
日に焼けた丸顔、屈託のない笑顔。
この人が側にいてくれて、本当に心強かった。
「エトワール伯爵。元気で!」
「ジロンド子爵。大変お世話になりました。私は兄がいないので、年長のジロンド子爵が同行してくれて本当に頼もしかったです」
「ハハハ! そうか! なら、兄だと思って頼ってくれ! いつでも歓迎だ! じゃあな!」
ジロンド子爵は、頼れる兄貴分だ。
領地が南部でも北にあるので、離れているが、今後も交流を続けたい。
「では! 出発!」
南部貴族の乗る騎竜が次々と村の広場から出発していった。
見送る俺たちから騎竜の姿が見えなくなり、足音も聞こえなくなった。
妹のマリーが、寂しそうに言う。
「お兄様。みなさん行ってしまいましたね」
「ああ。頼もしい連中だけど、いつまでも甘えるわけにはいかないからね。これからは、俺たちだけでしっかり領地を治めなければ」
「そうですね! お兄様! がんばりましょう!」
「おう!」
妹のマリーには、いつも励まされる。
さて、エトワール伯爵家の陣容は――
・俺、ノエル・エトワール伯爵
・妹のマリー
・執事のセバスチャン
・ネコネコ騎士のみーちゃん
・エルフのシューさん
――の五人だ。
上手く行けばダークエルフのエクレールが合流するが、しばらくはこの五人が中心だ。
村人は、俺たちを遠巻きに見ている。
村人からすれば、新しい領主と言われても、俺がどんな人なのかわからないし、どう接すれば良いかわからないのだろう。
こればかりは、時間をかけて少しずつ関係性を作って行くしかない。
とりあえずは、村長のベント老人を介してコミュニケーションを取るようにしよう。
執事のセバスチャンが、キリッとした表情で俺に聞いてきた。
「ノエル様。まず、何から手をつけましょうか?」
何から手をつけるか……。
やらなければならいことは沢山ある。
俺たちの住む家も必要だし、食料の調達も必要だ。
食料の調達をするなら、現金収入をどうするかを考えなくてはならない。
道路のこと、冒険者ギルドと話し合い、村の防衛。
だが、まずは……。
「まず、黒い水から始めよう。川が汚れているからな」
この村には井戸がある。
だが、井戸の水量は少なく、飲料水や料理用の水で使用する程度の水量しかない。
洗濯や農作物への水やり、魔物の解体などで、水場は絶対に必要だ。
それに黒い水は石油……。
生産スキル【マルチクラフト】で、石油製品が作れるか試してみたい。
「賛成いたします。川を利用可能にすれば、村人たちもノエル様に感謝するでしょう」
「村人たちの懐柔策にもなるね!」
執事のセバスチャンが賛成してくれた。
エトワール伯爵家の最初の仕事は、『黒い水をなんとかする』だ。
エルフ族のシューさんが、手を上げた。
「護衛として一つ守ってもらいたいことがある。全員一緒に行動して欲しい」
「その方が守りやすいですか?」
「そう。新しい土地では何があるかわからない。私とみーがそろっていれば、対処できる」
「わかった。しばらくは、全員一緒に動くようにしよう」
エトワール伯爵家チームの打ち合わせを終え、俺は村長のベント老人に案内を命じた。
「ベント村長。黒い水の所まで行く。案内を頼む。手の空いている者がいたら、二、三人連れてきてくれ」
「かしこまりました」
俺たちは、再び黒い水――石油が湧き出す場所へ向かった。
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