第21話 魔物の襲撃
見張りをしていたネコネコ騎士のみーちゃんが、声を張り上げた。
魔物の襲撃だ!
それも子供を追いかけている!
俺たちは一斉に魔の森を見た。
俺たちがいる野営地は、魔の森から離れている。
夕焼けが魔の森を照らしている。
魔物が徘徊する危険な森だと知らなければ、美しい景色に見えるだろう。
だが、目の前の光景は恐ろしい。
五歳くらいの男の子が、こちらへ向かって走っている。
男の子を追いかけ、魔の森から次々に魔物が湧き出しているのだ。
ルナール王国中央部には魔物がいないので、俺は動いている魔物を見るのは初めてだ。
小さな醜い魔物はゴブリンだろう。
大型で豚顔なのはオーク。
五……十……二十……いったい何匹いるんだ!
あまりの出来事に俺は思考停止してしまい、魔物から逃げる男の子と追いかける魔物の群れを見ることしか出来なかった。
ドン!
火柱が上がり、強烈な爆発音が響いた。
男の子を追いかけていたゴブリンとオークが爆散する。
「ノエル、マリー、セバスチャンは馬車の中へ退避! ジロンド子爵たちは、魔法で撃ち漏らした魔物を倒す!」
エルフのシューさんが大声で指示を飛ばす。
ハッとして馬車を振り向くとルーフの上に、見張りのみーちゃんとエルフのシューさんがいた。
エルフのシューさんは、魔法の杖を持っている。
今の攻撃はシューさんの魔法か!
何て威力だ!
シューさんの呼びかけにジロンド子爵が反応した。
「了解した!」
ジロンド子爵は騎竜へ飛び乗り、部下四人とともに走り出した。
俺、マリー、執事のセバスチャンは、事態の急変について行けずオロオロしていた。
馬車のルーフから飛び降りたみーちゃんが、俺たちに駆け寄り背中を押す。
「早く馬車に入るニャ!」
「あ、ああ……」
「しっかりするニャ! 頑丈な馬車の中に入れば安心ニャ! 急ぐニャ!」
「わ、わかった!」
俺はマリーの手を引いて、馬車へ走った。
マリーを座席に座らせると、執事のセバスチャンも駆け込んできた。
「セバスチャン! 窓を塞げ!」
「かしこまりました!」
馬車の窓は改造済みだ。
スライド式の防御用の板を仕込んであるので、窓を塞ぐことが出来る。
俺とセバスチャンは、馬車の窓を急いで塞ぐ。
板をスライドさせてロックする。
これで馬車の中に魔物は侵入できない。
窓と板の間に細い隙間が空いていた。
隙間から明かりが差し、馬車の中を微かに照らす。
「これで大丈夫だ。頑丈な板で強化したらキャビンにいれば安全だ」
俺の言葉に執事のセバスチャンが続く。
「左様でございますね。外はシュー様、みー様、ジロンド子爵様たちがいらっしゃいます。魔物の数は多いですが、大丈夫でしょう!」
正直、大丈夫なのかどうかわからない。
だが、妹のマリーが不安そうにしているので、俺も執事のセバスチャンも、マリーを安心させようとプラスの材料を口にした。
外では爆発音や魔物の叫び声が響いている。
正直、俺も怖い。
だが、妹のマリーを守らなくては!
俺は気持ちを強く持った。
ガン!
突然、馬車に大きな衝撃があり、馬車が揺れた。
「何だ!?」
「キャア!」
妹のマリーが悲鳴を上げて、俺に抱きつく。
ガン! ガン! ガン!
連続して大きな音がして、馬車が横に揺れる。
何かが馬車を叩いてる!
妹のマリーを執事のセバスチャンに預け、俺は窓を塞いだ板の隙間から外をのぞく。
細い隙間から外を見ると、オークがいた。
オークは棍棒で馬車を叩いている。
「オークにとりつかれた……」
「何ですと!」
執事のセバスチャンが裏返った声を出し、妹のマリーが青い顔をする。
何とかしないと……。
マリーを守るのだ……!
天国の母上!
どうかお守り下さい!
俺はキャビンの天井に備えてあったクロスボウを手にして矢筒を背負った。
このクロスボウは、馬車を強化した時に作った物だ。
両足を使ってクロスボウの弓を引っ張り、矢をセットする。
この両足を使う方法なら、非力な十三歳の俺でもクロスボウを使える。
俺がクロスボウをセットしている間も、馬車はガンガン叩かれている。
このままでは、車体が保たない。
妹のマリーと執事のセバスチャンが、俺が戦う気だと気が付いた。
「お兄様! 大丈夫なのですか!?」
「ノエル様! 危険です!」
「大丈夫だ! 俺が何とかする! 出るぞ!」
制止するセバスチャンを手で制して、俺はキャビンの天井を開けてルーフへ出た。
音を立てないようにそっと……。
急に明るい外へ出たので、目が慣れない。
目を細めて辺りを見る。
ルーフのすぐ下にオークがいた。
太い棍棒を振り上げて、馬車を叩いている。
オークが棍棒を馬車に叩きつける度に鈍い音がして、馬車が揺れる。
強化したといっても、これでは壊されてしまう!
俺は膝立ちになり、矢のセットされたクロスボウをそっと構えた。
俺とオークは、上から打ち下ろす位置関係だ。
どこを狙う?
的としては、胴体が大きいが、オークの体はぶ厚い脂肪と筋肉に覆われている。
矢のダメージがどれほど通るかわからない。
肩も的としてはデカイが、筋肉が盛り上がっているので、矢のダメージは半減されるだろう。
喉や急所は狙えない角度だ。
すると頭部……。
オークの頭部に狙いをつける。
だが、このまま打ってもオークの額に当たってしまう。
額は骨があり頑丈な箇所だ。
矢の威力が弱まってしまう。
頭部でも顔面を狙いたい。
おまけにオークが馬車をガンガン叩くので、揺れて狙いがぶれる。
一瞬で良い……。
揺れが収まり、オークの顔面を狙えるようにするには……そうだ!
俺はひらめいたことを実行に移す。
無謀な試みではあるが、このままでは馬車が壊されかねない。
勝負だ!
「おい! 豚野郎!」
俺はわざと声を出した。
オークは急に声が聞こえたことに反応した。
馬車を叩くのを止めて、辺りをキョロキョロ見回している。
コイツ……体はデカイが、頭は弱いな!
俺はクロスボウを構えたまま、オークへ向けて大きな声を上げる。
「ここだ! ブタ!」
「ブッ……?」
オークが上を見た。
俺と目が合う。
オークの顔面が狙える位置になった瞬間、俺は迷わずクロスボウの矢を放った。
鋭い風切り音を発して矢は飛び出し、オークの顔面に吸い込まれた。
俺が放った矢は、オークの左目から後頭部まで突き抜け、一瞬でオークの命を奪った。
オークはビクリと硬直し、糸が切れた操り人形のように地面に倒れた。
「ふう……」
俺は深く息を吐き出した。
だが、周りでは戦闘が続いている。
俺は両足を使ってクロスボウに次の矢をセットした。
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