第8話 マジックバッグを作ろう!
「わあ! お肉だぁ!」
「ニャア! 美味しそうニャ!」
夕食はぶ厚いステーキである!
エトワール・グラスが完売したので、夕食は奮発したのだ。
今まで見たこともない厚切り肉に妹のマリーが大喜びだ。
ネコネコ騎士のみーちゃんもご機嫌になっている。
俺は食事の支度をしてくれたメイド長のエバに礼を述べた。
「エバ。美味しいご飯をありがとう」
「ありがとうございます。エトワール伯爵家が立て直せそうで、良かったですよ!」
エバはデップリとした『下町のおっかさん』といった雰囲気の女性だ。
王都で雇い入れ、もう十年働いてもらっている。
一応、メイド長という肩書きは付いているが、メイドはエバ一人だ。
貧乏だったエトワール伯爵家の使用人は執事のセバスチャンとメイド長のエバの二人だけ。
残念なことにエバは、新しい領地にはついてこない。
家族が王都に住んでいるし、魔物の多い南方は恐ろしいと怖がっていた。
エバは妹のマリーの面倒をよく見てくれていたので残念だ。
食事が終わり、エバが退出しようとしたので、俺はエバを呼び止めた。
「エバ。長い間エトワール伯爵家に仕えてくれて、ありがとう。苦労が多かったと思うが感謝している」
「ノエルぼっちゃま……。もったいないお言葉です」
俺は執事のセバスチャンに目で合図をした。
セバスチャンが大金貨十枚をエバに手渡す。
「これは感謝の気持ちだ。慰労金だと思ってくれ」
「ええええ!? こんなに沢山!? よろしいのですか!?」
「ああ、受け取ってくれ。エバは本当によく働いてくれた。ここで別れるのが残念だ。元気で!」
「ノエルぼっちゃまもマリー嬢ちゃまも、お元気で。お体に気をつけて下さい。生水を飲んではなりませんよ。では、長らくお世話になりました」
エバは名残惜しそうに去って行った。
「随分、奮発したのニャ」
「苦労したけど最後には報われたと思ってもらいたい。まあ、貴族家として体裁も保たないとって面もあるけど」
『エトワール伯爵家が領地を返上して南部に追放になった』
『原因は前当主のギャンブルが原因』
と、良くない噂が明日には王都で広まるだろう。
貴族の間はもちろん、貴族家で働く使用人の間にもだ。
夜逃げ同然の無様な退去なのか?
使用人に篤く報いて堂々と王都を退去するのか?
この差は大きい。
エバには大金貨十枚、百万リーブルを慰労金として渡した。
平民には、目が飛び出るほどの大金だ。
エバは誰かにエトワール伯爵家のことを聞かれたら、『かなりの額を慰労金としてもらった』と話してくれるだろう。
『エトワール伯爵家は、長年勤めたメイド長に大金を支払い労に報いた』
と噂になるだろう。
去り際を美しくすることで、エトワール伯爵家の名誉は守られるのだ。
「また、王都に帰ってくるかもしれないからね」
「なるほどニャ。ノエルは貴族家の当主だからニャ。体面も気にしなくてはならないのニャ」
「そういうこと」
みーちゃんが腕を組んで感心しきりだ。
俺たちエトワール伯爵家は王都から追放される。
国王ルドヴィク十四世と宰相マザランの陰謀によって。
だが、これで終わりだと思うなよ!
俺は生産スキル【マルチクラフト】を得た。
新領地は評判の良くない南部の領地だが、このスキルを使って領地を開発するんだ!
それに俺の周りには執事のセバスチャンとネコネコ騎士のみーちゃんがいる。
ま、まあ、みーちゃんの実力は不明だが、女神様から遣わされたのだ。
少なくとも弱いってことはないだろう。
妹のマリーが、みーちゃんに向かって甘えた声を出す。
「みーちゃん。わたし、お腹いっぱい!」
「ニャア。出発まで少し横になるニャ」
みーちゃんは、妹のマリーとすっかり仲が良くて面倒を見てくれている。
メイド長のエバが辞めて、妹のマリーが寂しがると大変だなと思っていたが、みーちゃんがエバの抜けた穴を埋めてくれそうだ。
みーちゃんが、妹のマリーを連れて食堂から出て行った。
俺と執事のセバスチャンだけになった。
俺は気持ちを、お仕事モードに切り替える。
「さて、セバスチャン。これから南部の新領地へ向かうが準備はどうだ?」
「問題ございません。先ほどの取引でマジックバッグをいくつか手に入れましたので、荷物や物資はマジックバッグに入れて運びます」
先ほどの取引――エトワール・グラスの販売で、一部を物々交換にして手に入れたのだ。
マジックバッグは、便利な魔導具だ。
見た目は普通のバッグなのだが、大量の荷物を収納することが出来る。
マジックバッグがあるなら、物々交換で手に入れた物資も南部の新領地へ持って行ける。
新領地開拓に役立つだろう。
俺は満足だと深くうなずいた。
いや、待てよ……。
「ねえ、セバスチャン。スキルでマジックバッグを作れないかな?」
「えっ!?」
俺がスキルでマジックバッグを生成できれば、さらに多くの物資を新領地に持って行ける。
余れば道中で売っても良いのだ。
マジックバッグが多いに越したことはない。
「物々交換した中に魔石があったよね? それからカーテンをバッグにすれば、マジックバッグを作る材料がそろうと思うけど?」
「確かに、そうですね……。マジックバッグは魔導具士が制作いたします。魔導具士も【魔導具作成】スキルを使うと聞きますから……、ノエル様でも出来る……のでしょうか?」
「試してみよう」
俺は立ち上がると食堂の窓に寄った。
窓ガラスはエトワール・グラスの材料にしたので、窓は吹きさらしだ。
夜風にボロのカーテンが揺れている。
このボロのカーテンをバッグの材料にしよう。
「スキル発動! マルチクラフト!」
生産スキル【マルチクラフト】が発動し、ボロのカーテンが布袋になった。
ズタ袋で見た目はあまり良くないが、マジックバッグの材料としては十分だろう。
「ノエル様。こちらがマジックバッグでございます」
「ありがとう」
執事のセバスチャンが、マジックバッグを手渡す。
マジックバッグを手に取って見る。
マジックバッグの実物を触るのは初めてだ。
ちょっとワクワクしながら、俺はマジックバッグをジックリと観察した。
見た目は、地味な茶色い革製のショルダーバッグだ。
表面をなでて見ると、バッグの中央に魔石が埋め込まれている。
口を開くとバッグの中は真っ暗だ。
口に手を入れてみると、中に入っている物が頭の中にパッと浮かんが。
(これは作るのが難しそうだぞ……。魔方陣を組み込んでいるのかな?)
マジックバッグの構造が知りたいと考えていると、体内の魔力がわずかに動く感触があり、頭の中にスッとマジックバッグの構造が入って来た。
「あっ!」
「ノエル様。いかがなさいました?」
「いや、スキルがレベルアップしたようだ。このマジックバッグがどんな構造なのか分析できてしまった」
エトワール・グラスを山ほど作ったからだろう。
スキル【マルチクラフト】に分析機能が追加された!
スキルで生成したいアイテムの構造がわかれば、どんなアイテムを作りたいかイメージをしやすい。
生産する際に精度が上がるだろう。
マジックバッグの構造がわかった。
魔石をコアとし、魔石の周囲に魔方陣を配置する。
このマジックバッグは、魔方陣を内側に縫い付けて目立たなくしてあるようだ。
マジックバッグの性能は、魔方陣の種類、作成者のスキル、魔石やバッグの品質によって上下する。
よし!
構造はわかった。
早速マジックバッグを作ろう。
執事のセバスチャンから魔石を受け取る。
魔石と布袋をテーブルに置きスキルで分析を行うと、魔石と布袋の品質が頭に浮かんだ。
【魔石:中品質】
【布袋:低品質】
布袋の品質が良くないが、マジックバッグは作れそうだ。
俺はスキル【マルチクラフト】を発動する。
「スキル発動! マルチクラフト!」
魔石と布袋が金色に輝き、やがて七色の光りがテーブルに溢れた。
光りが消えると布袋だけがテーブルの上に残った。
【簡易マジックバッグ:低品質 超大容量 利用可能期間一ヶ月】
出来た!
魔導具をスキルで生成出来たぞ!
低品質ではあるが、マジックバッグはマジックバッグだ!
容量に全振りしたので、利用可能期間が一ヶ月になってしまった。
品質向上と機能向上は、今後の研究課題だな。
執事のセバスチャンが、興奮した口調で俺に問いかける。
「ノエル様! 出来たのですね!」
「ああ、一ヶ月しか使えないが、超大容量のマジックバッグが出来た」
「一ヶ月でございますか……。新領地に到着するかどうか……」
ふむ。
今度は移動が課題か。
「移動は徒歩か?」
「徒歩と駅馬車を使おうと考えておりました。マリー様の足では、移動に時間がかかるのではないかと」
マリーは、まだ八才だ。
歩く速度は遅いし、長距離を歩くのは辛いだろう。
駅馬車が走っている区間は良いが、田舎へ行って歩かなければならなくなったら、移動速度が上がらない。
そうだ!
「それなら、馬車をスキルで作ろう!」
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