朝のコーヒー

水沢朱実

第1話

朝五時半に起きて、台所を片付けながら、コーヒーの準備をする。


 錆びついたヤカンに、水を二人分流し入れて、アラームを八分にセット。わざわざ八分にする訳は、台所を片付けて、手が離せない時の防御線だ。


父と私の朝の一息。父のリクエストは砂糖たっぷりの紅茶、私はカフェオレのスティックコーヒーだ。


 シュッシュッシュとヤカンが怒り出す頃、私は台所の手を洗って、一時ヤカンの方に赴く。


 「今日はどうかなー」


一人ごちながら、ミトンを右手に、父のカップと、私のタンブラーに熱湯を注ぐ。


「あちっ」


予想通りというか、今日のヤカンは、機嫌が悪い。ヤカンの口から、激しく熱湯がカップを飛び越えて、私の指に跳ねる。まあいい。すぐに水で冷やせば済むことだ。


私のタンブラーに、熱湯を注ぐ。今度は大丈夫のようだ。


タンブラーに、熱湯を注ぐと、タンブラーの底からゆっくりと喫水線が見えてくる。


黒っぽい塊も、時には見えてくる。スティックコーヒーの、溶け切らなかった残りの塊だ。


ティースプーンを手に、タンブラーをかき混ぜる。コツが未だに解らないのだが、コツが上手く作用すると、タンブラーは、チョコレート色の泡に染まる。泡は、黒い塊を飲み込んで、白いカフェオレ色に染まる。チョコレート色よりは、薄い色だ。


「――うん」

一人ごちて、私は両手で、父のカップと自分のタンブラーをリビングに持っていく。


この時の私のコーヒーの量は、半分か三分の二くらい。


リビングに着いたら、私は、テーブルの上の天然水をタンブラーに注ぐ。


これが難しい。


水の量によっては、コーヒーは薄くて苦いだけのただのお湯になる。でも、加減を間違えなければ、コーヒーは、高級ホテルの食後のコーヒーになる。


「・・・・・・さて、今日はどうかな」


ティースプーンのかき混ぜる手を止めて、私はスプーンをいつもの小さな小皿に置く。タンブラーを手に、私は口元にコーヒーを運ぶ。


「・・・・・・やるじゃん、私」


一人ごちる。


今朝、三回目。


今日の朝のコーヒーは、大当たりだった。


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朝のコーヒー 水沢朱実 @akemi_mizusawa

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