第12話 田中ケンジ視点
*** 田中ケンジ視点 ***
私、田中ケンジは出身はTOKYOだが、特に目標もなく大学は隣の県にあるTS市の学校を選んだ。私立TS学園という学校だ。
このTS市に住んで、初めてTS娘を目の当たりにし、しかも男が女性化するのを見たときは腰を抜かすかと思った。
「腹減った〜」と言っていた男子が、目の前でしばらくうずくまった後、美少女になるのだ! 信じられるだろうか!
特にTS学園は、中高を併設しているのでTS娘がうじゃうじゃいる。
そのうちTS娘にも慣れ、彼らはただ中高生くらいの年代――いわゆる思春期――に一時的に女性化――それもかなり美少女が多い――するだけで、自分とあまり変わりのない人たちだと認識できるようになった。
ただ、特殊な存在ではあるので、TS市ではTS娘保護条例があるのを講義で習った記憶がある。
話をもどそう。学部は法学部卒。
就職に有利と聞いて、卒業後すぐには就職せず、しばらくアルバイトをしながら簿記の勉強をし、『2級』を取得した――さすがに『1級』は無理だった。
半年ほどのブランクがあり、第二新卒でもなかったが、学部と資格が幸いして、すんなり就職できた。
ネイルサロンTSという会社だ。
就活時、社名を聞いたときはいかがわしい会社と思ったが、普通のネイルサロンで法人化から十二年になる中堅企業だ。
ただ、店長がTS娘だという点が他とは違っていた。
そんな需要がなぜあるかはわからないが、設立当初はネイル業界では話題を呼んだらしく、今でも繁盛してるのは確かだ。
会社説明を受けたとき、TS娘は思春期だけの期間のみ女性化するのではなく、以降も女性化する人が存在し、五人が店長として在籍している事を知った。
しかもその女性化を促す要因――トリガーというらしい――がネイルを爪に塗るという事だと聞かされたのが、特にネイルに興味があったわけではないが、この会社に興味を持ったきっかけだった。
入社後、管理部に配属された。
管理部には人事・総務課、経理課があり、経理課に所属している。
持株はほぼ半数が山下社長で、残りは社長の友人と、中島店長が一株か二株持っている、普通にある同族会社だ。
二人とも株主ではあるが、役員ではない。
後に中島店長から聞かされた話だが、学生時代アルバイト代の代わりに株式を譲渡されたとか……結構いい加減なものだ。
年商約二億円弱の規模の会社はこんなもんなのだろうか。
*** 来 客 ***
そんなある日、そろそろ昼食を摂ろうかと経理データを入力していると……。
「あ、タナカさん。来客があるんでミーティンルーム1にお茶二客、いや三客を……そうね、今はタナカさんしかいないから後で管理部の誰かに言って持ってきてくれるよう伝えて。十二時四十分ころにはいらっしゃるから」と社長。
「承知しました」
社員は女性が多いので、お茶出しのマナーも社員の間で「こうやって一客分揃えて、先にお客様にお出しするのね。そしてそのときは、立ったままじゃなくてお客様のそばに膝をついて……」と実習?しているのを見かける。
お客様へのお茶出しは失礼があってはいけないので、社長も気遣ってくれたとみえる。
十二時半少し前に食事から戻ってきた佐々木さん(佐々木フミ)に、「社長から指示されたのですが、十二時四十分ころにお客様がみえるのでミーティングルーム1にお茶を三客お願いしてもよろしいですか?」
「いいわよ〜タナカくん」
ササキさんはおっとりした人だが、古くから――といっても十年は在籍していない――いらっしゃる管理部の要だ。
「社長のお客様ねぇ……誰かしら〜」おっとりしていてもなかなか詮索好きなところがある。
「こんにちは〜」やがて十二時四十分ちょうどに、お客様来社。
「いらっしゃいませ!」見覚えがある人だ……あ〜、たしか社長の……。
「いらっしゃいませ!」
「こんにちはカネコさん」あちこちから挨拶の声。
あ、そうだ。ヘアサロンを経営しているカネコさんだ……今日はなんだろう。私も案外詮索好きかもしれない。
しばらくして……。
「あ、しのぶさんお疲れ様〜」
「お疲れ様です」これもあちこちから挨拶。
あ、中島店長……「お疲れ様です!」
管理部の島に中島店長が近づいてくる。
挨拶後、しばらく話していたと思ったら、「社長は来客でミーティングルーム1いらっしゃいます」と伝えるよりも早く、さっさとミーティングルームに行ってしまった……。
見た目は小柄……というよりかなり背が低く、実年齢は三十二歳なのにまるでJK!
めちゃくちゃかわいい……いやいやいや……大先輩だしTS娘だぞ、何を考えてるんだ。
しかも店長会議で失礼な事をしてしまった方だ。
でもあの金髪ロングと赤目……TS娘、それもレアスキル持ちなんだな……。
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