第7話 ナ、ナンパ〜?

*** ナ、ナンパ〜? ***


 本社での店長会議兼営業会議から戻る途中、ちょっとモヤモヤしてたのでタバコ吸いたくなったから繁華街路上の喫煙コーナーへ……。

 関係ないけど、ネイリストの女性ってなぜか喫煙率が高い。ついでに日本酒好きも多い……わたしはそんなに呑まないけど……。


 お気に入りのメンソール・ベリーフレーバー(タール5ミリグラム、ニコチン0.3ミリグラム)を取り出し、フレーバーカプセルを歯で噛んで潰す。

 ベリーの香りが口中に広がる……そして咥えタバコで火をつける。

「ふ〜〜〜生き返るぅ〜〜〜」やっぱりタール多めっていいわぁ〜……いい香り、っても実は吸ってる本人はあんまり香り感じないけどね。


 ――訝しげにしばらくこちらを見ていた生真面目そうなおっさんが近づいて来る。

「もしもし君、未成年じゃない? だめじゃないか」

 そしてわたしを見下ろしつつ――なんせ身長低いんでね――下から上まで舐め回すように見る……。

 生真面目そうなのは見掛け倒しだったか、それとも男のサガなのか?

「……よく見りゃ可愛いじゃん、キミ何歳? 喫煙できるコーヒー店、行かない? 奢ったげるよ?」

「……」

「ね、いいじゃん? 行こ?」

「……」

「お〜い、シカトかよ。可愛いからって……んじゃ交番行くか?」

「……三十二」

「へ?」

「だ〜か〜ら〜、三十二歳だっつーの! それにわたしTS娘……ほら」と、通称TS証明書を見せる。

「うっ……TS娘かよ!」と言いながら逃げるように立ち去る。

 TS市では、『TS娘保護条例』により嫌がらせや暴行などは厳罰に処されるからだ。


 うわ~ドキドキした〜外での喫煙は女子化してないときに……って気をつけてたけど、今日は油断しちゃったな……。


*** あ〜 ***


「ただいま……」

「あ、お帰りなさい。店長」とチーフ。

「ん……」

「あれ、なんか元気ない? ですね」

「あ〜」

「なんかあったんですか? 社長に絞られたとか……?」

「あ〜、いやごめん。会議はうまくいったけどさ、帰る途中喫煙所で……」

「……あ〜、ナンパされたとか?」

「ビ、ビンゴ……う〜オレもう、タバコやめる〜! ってか外で吸わね〜!」

 チーフに「可愛い顔でオレとか男言葉で喋らないでください……お店なんですから」と耳打ちされる。

 はっ、そうだった……いかんいかん。

 しょうがないから、気分転換でビル内の喫煙所に行くか……そこなら見知った人しか来ないから安全だ……。


 通勤電車みたいにTS娘専用の喫煙所、欲しいぞ!

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