上と下

@momochi1029

第1話

「明日の天気って晴れるかな?」

「......さあ」

 ふと、隣でスマホをいじっている悠太に聞いてみる。僕の質問に興味がないのか、それとも、そんなにスマホの映像が面白いのか分からないが反応が薄かった。

 空を見上げると、青い平原に薄い雲がゆっくりと流れ、暖かな日差しが身を包んでくれるて心地がいい。

 こんなに綺麗な景色がいつも目の前にあったのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。

「なあ、悠太。お前も空を見てみろよ、すごく綺麗だ」

「急にどうした? ポエマーにでもなったのか?」

 顔が熱くなるのを感じる。

 何を急に変なことを言ってしまったのだろう。こんなこと、他の誰かに言われたら恥ずかしい。それにしても相変わらず悠太の視線はスマホのままだ。まあ、悠太ならいちいちこんなことを人に言うようなタイプではないか。

 気を取り直してもう一度、空を眺めてみる。

 よく見ていると、空の色や雲の形、太陽の眩しさは違って見える。

 空の青さは、薄い水色や水色、青色や蒼色。さらによくみると赤色や緑、黄色すら混ざっているように見える。雲の形もさまざまだった。わたあめみたいに本当にふわふわしてそうな雲から飛行機が通った雲、龍でも隠れていそうな大きな雲など見ていて飽きない。

 どうしてこんな景色があるのに誰も見ないのだろう。なんだか自分一人だけこんな景色を見ているはもったいなくなってきた。

 誰か僕と同じく空を見上げて感動している人がいないか探してみる。

 でも、誰も空を見上げる人なんていなかった。むしろ、ほとんどの人が下を向いている。顔が少しやつれているように見える黒のスーツを着た男性やグレイのパーカーに青のジーンズ、白のスニーカーを履いた女子大生、坊主頭に学ランの3人組男子中学生に、買い物帰りに見える40代くらいの主婦。僕が見渡しかぎりの人、すべてが下を向いている。

 なんだか不思議な光景に見えてきた。

 まるで、僕だけが世界の真実に気づいた主人公みたいに思えてきた。

「......ふふっ。僕だけの世界か......」

「おい、今度は厨二病か?」

 本当にどうしちまったんだ、という心を読み取る特殊能力がない僕にも分かるくらい痛い視線だったが、2回目はさほどダメージはなかった。むしろ、ようやく視線を変えた悠太に驚いたくらいだ。だが、そこまで関心の的にはなかったようで、またすぐに視線を戻してしまった。

 世の中、そんなにも小さな画面の世界の方が綺麗なのだろうか。

 僕も確かに下ばかり見てきた。暇さえあれば無意識にだ。歩いている時や電車に乗っている時、食事の時やお風呂に入っている時でさえ下を向いていた。

 目の前に綺麗なものがあると知らずに? いや、知っておきながら見てこなかった気がする。

 僕は「また、明日」と言って悠太と別れたあと、コンビニに寄ってコーラを買い、飲みながら家へと帰った。

 その途中、ふと、電柱の下に生えている雑草に目が留まる。

「あの葉の色はなんか青っぽく見えるな」

 


 

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