第一部 邂逅編
一.忌み子の少女
東の空があざやかな深紅を帯び、
そわそわと落ち着かない様子で家の中と外を行き来している母に声を掛けるべきか迷い、ティリーアは足を止めた。しばらく様子を見守るも母と目が合うことはなく、彼女は黙って二階の自室へと向かう。
大丈夫よ、と、声に乗せ損ねたことばを胸に巡らす。
村の大人たちは口を揃えて、
彼女の両親も他と同じく、日没後の闇を恐れていた。夜の時間が迫りくる今、母はまだ戻らぬ弟の身を案じて不安に駆られているのだ。
弟のこれは反抗期かもしれない、と姉心に思う。
人族の少年というものは好奇心が強く、活発で、恐れしらずらしい。村には弟の他に子供がいないため、竜族の少年も同じだとは言いきれないが。
森に入ってはならない、夜に外へ出てはならない、他にもあれこれと――。この村には掟が多い。そのほとんどが先達から受け継がれ、あるいは
小さな村で目新しいものもなく、周りは大人ばかりで遊び相手もいないのでは、
足音を潜めて部屋へ入り、そっと扉を閉めた。窓際に近づいて壁に手を触れ、目を閉じる。眼裏を巡る
本当はそれを母に告げて安心させたかったが、今日も変わらずいない者として扱われたのでは仕方がなかった。
この様子では
息子を
伝承によれば、この世界はひとりの竜族により創られたという。
この村は、始まりの時代に創世竜により招かれた者たちが異界から移住し、
竜族は、その
竜族の母から産まれていながら、ティリーアは人族だった。魔法力を全く持たず、竜に変じることもできず、髪色は
その有様は人族に似ていた。しかし、両親とも竜族でありながら、人族の子供が産まれることなどあるだろうか。誰もが理解できず説明のつかない現象に理由を付すとしたら、一つしかない。
竜族にとって人族は、取るに足りない存在だ。魔法力を持たず、わずか百年足らずしか生きられぬ、
彼女を産み落とした母親は、はじめは好奇の、やがては嫌悪の目に
当然ながらティリーアの誕生を祝福する者はなく、両親が幼い娘へ愛情を傾けることもなかった。彼女の名前すらも両親ではなく
まるで存在そのものが罪であるかのように扱われ、それでも彼女がここまで生き延びてこれたのは、
しかしティリーアは物心がつく前からすでに、
他の誰が信じないとしても、ティリーアは母の無実を確信している。信じたい、希望したいなどという
そんな、彼女にとっても両親にとってもつらい状況に終わりをもたらしたのが、歳の離れた弟――アスラの誕生だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます