第8話 あ…(抜けてった…)

「あ…(抜けてった…)」


 きっかけが電話ということであって、

 その時僕はこんな風に思いました。




「体から気力というか生気というか、

 そんなものが水分のように溶け出して

 足元や靴を濡らしながら流れていき

 床や道の傾斜をすべって

 排水溝に吸い込まれていってしまう…」




 そんなイメージが…

 あくまでイメージが浮かび声も出てしまいました。


 このイメージ、すっごく当たっています。


 気力や生気は僕という殻だけを残し

 一滴も残さずに流れ出し消えていきました。


 デスクから立ち上がるのも、トイレに行くのもしんどくなり鳴る電話も放置しました。


 4月物流に放り込まれてからのつらい時、

他社への謝罪時など携帯電話で撮った娘の写真を見ながら先方と話したり、勇気を振り絞っていました。


 今回も手が震えるなか、顎や両手でなんとか二つ折りのそれを開き、まだかわいいさかりの娘の写真を眺めました。


「これはまずい…たぶんかなりまずいよな…」


 途方にくれましたね…。

 会社にいたからいいですが一人だったら怖かったです。

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