第9話 さりげない優しさ
周りから見れば、年頃の女性3人で楽しそうにショッピングをしているように見えるわたし達。
髪飾りの店や、小物を売っている店、いろいろと見て回っては、流行がどうのこうのとギャイギャイと言い合っている。
それは初めての体験で面白いし、楽しい。
辺境伯領地では気の置けない友人がいるが、一つの目標に向かって協力し合っている「同士」はまた違った絆のような結束が感じられる。
メイド服姿のキール様がさっきから、変な歩き方をしだした。
靴が合わないのか、足が辛そうだ。
それに気づいたクリス殿下がさりげなく、ゆっくり歩くようにされている。
このふたり、普段は主従関係だけど、なんだかんだと言っても「親友」なのがわかる。
そして、クリス殿下は本当に気遣いの人だ。
わたしと初めて会った夜の優しい命令といい、待ち合わせ場所が共同墓地だったり、この人の優しさはいつもさりげない。
アドニス様が早くこのクリス殿下の優しさに気づかれることを願わずにはいられない。
キール様の足がいよいよ悲鳴を上げだしたようだ。
「なっ、女性の服って歩きづらいんだな。スカートの裾が鬱陶しいし、俺、この先っぽが細い靴が辛くて、いよいよ足が限界なんだけど」
キール様がメイド服をチラッと捲って、わたしに足を見せる。
ハイヒールとまではいかないが、キール様が履いている女性用の靴も足がいっぱいいっぱいに入っているので、「むちっ」となっていて、靴も限界のようだ。
「そうでしょう。女性は結構、大変なんですよ。意味もなく先が細かったり、ヒールが高かったりする靴をほぼ強制的に履かなければならないですからね。だから、女性といる時に早歩きをしたり走ったりはやめてあげてくださいね。手を繋ぎ、ゆっくり歩いてエスコートしてそれとなく支えてあげてくださいね」
「なるほど。エスコートをするということはそういう意味があるんだな」
クリス殿下の長い前髪から見える眼鏡がキラーンと光ったように思う。
ぜひ、アドニス様と一緒の時にこの知識を活かしてください。
前髪の重さもあって、無機質そうに見えるクリス殿下が早歩きや走ったりするアグレッシブな姿が想像つかないけどね。
だから、アドニス様を困らせるようなことはほとんどなさらないんだろうけど。
逆にアクティブな雰囲気のキール様のお相手は大変そうなのが簡単に想像できるわ。
「シャンディも大変だった?」
クリス殿下が心配そうに聞いてくださる。
「ハイヒールなんて、慣れるまでが大変でしたよ。しかもこれでダンスとか辛すぎでした。なので、ダンスを一緒に踊ってくださる女性全員に敬意を払ってくださいね」
世の男どもよ、女性の涙ぐましい努力を知るがいい。
「「知らないことばかりだった」」
クリス殿下とキール様がふぅと同時にため息を吐かれる。
「知ること」で優しくなれる。
とても大事なこと。
クリス殿下がキール様に手を差し出される。
それを恥ずかしそうに手を取るキール様。
美女2人のその姿は絵姿にしたいぐらい、お綺麗でしたよ。
キール様の足がもう限界なので、近くにある王都で1番大きな公園の池のボートに乗って、足を休めることにした。
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