辺境伯令嬢、殿下とお互いの婚約者の愛を掴もうと奮闘しましたが、どうやら拗らせたようです

植まどか

第1話 浮気現場

 広大な庭園にひと際大きな建物がある。

 大きな窓ガラスが幾つも並び、その中にある大広間はシャンデリアが煌々とし、その下では賑やかにダンスの曲が奏でられ、楽しそうな男女の話し声に美味しそうな料理の匂いもする。


 今晩は王宮で催されている年1回の舞踏会。

 この国の15歳以上のすべての貴族は出席をしなければならない。


 でもこれはただの舞踏会だけではない。

 わたしが暮らすこのニコラシカ国は、数年に一度は隣国マッキノンが鉱産資源が豊富な我が国の鉱山目当てで攻めてきて戦争になる。

 そのために舞踏会の前は、各貴族達の領地の状況報告がなされ、隣国対策を話し合う総会が開かれる。

 そのあとは王族や貴族達が親睦を深めるこの舞踏会となるのだ。


 争いの絶えない隣国と国境を接するところが領地であるガフ辺境伯のひとり娘であるわたしシャンディ・ガフはもれなく出席対象だ。

 昨年、初めてこの会に出席をし、今年で2回目の16歳。

 

 辺境伯という名の通り、辺境の地で暮らしているわたしは王都で開かれる煌びやかな舞踏会になんて、少しも興味がない。

 顔見知りのご令嬢と近況報告の会話をするだけで十分だ。

 願わくば、総会のみの出席で辺境伯領地にトンボ帰りしたいがそうもいかない。


 この王都にちょうど1年前に婚約した婚約者がいる。

 王都行きを渋るわたしを両親に引きずられるように連行され、これから3ヶ月ほど辺境の地に2年後に婿に来てくれる婚約者と交流を深めるという使命がある。

 1年前も3ヶ月ほど交流をして、あとは手紙のやり取りをしていただけの関係。

 今年も3ヶ月の交流。



 だが、いまわたしはその婚約者の浮気現場にいる。

 さて、どうしたものか…



 わたしの婚約者。

 ペイトン・プレイスは侯爵家の3男でわたしよりも3歳年上で騎士団に所属している。

 昨年、初めてお会いした時はこんな見目麗しい金髪長身男性がわたしと本当に婚約して良いものかと、彼はうちの両親や周りの人達に騙されているのではないかと心配をするぐらいだった。


 でもね。そうなんです。

 やっぱり見目麗しい男性はこの世の女性、みんなのもの。

 「眼福♡」

と言いながら、遠くから眺めるだけのものなんです。

 決して、「婚約者」とかになってはいけないんです。

そんな彼がわたしの婚約者になったのだから、さあ大変。


わたし?

もちろん、平々凡々な容姿。

ほぼ黄色?の金髪。

瞳の色?

平々凡々に茶色。

ここはレモンのような爽やかな金髪に瞳は琥珀色と言っておいた方がポイントが高い?

まだ16歳だから発展途上なのよ。

お願いだから、そういうことにしておいて。

きっと明るい未来が待っているはず(希望)


こんなわたしが見目麗しい婚約者とちょっと3ヶ月の間に数回会っただけで、わたしの虜に出来るとでも?

そんなに世の中は甘くない。


 いま、ここは大広間の前に広がる広大な庭園の一角。

 ペイトン様がこれまた見目麗しいご令嬢の手を握りしめ、お互い瞳を見つめ合い、噴水を背景(バック)になにやら会話をなさっている。


 噴水の水しぶきが大広間から漏れる灯りと相まってキラキラし、見目麗しいおふたりがそれを背景にされているので更にキラキラされている。


 先ほどペイトン様はわたしをエスコートをしてくださり、大広間の中央で1回だけダンスを踊った。


 夢のような時間だった。

 シャンデリアが眩しいのか、ペイトン様が眩しいのか。

 舞い上がるというか慣れないことに緊張してしまって、もはや訳のわからない状態だった。


 そして、少し待っていてね。

 わたしは素直に頷いた。

 そんな言葉を残されて、1時間。

 壁の花になって待ってみたものの、ペイトン様は戻って来られない。

 さすがに心配になって、探してみたらコレだ。


 ハアァァァァァーー

 またか。

 また浮気なのね。

 大きな溜息を吐く。

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