いまここにいるわたし
葉方萌生
いまここにいるわたし
「いってきます」
そんな声も今では聞こえない
大人になって
子供じゃなくなって
出かけることが増えて
ひとりでいることが増えて
泣かなくなり
偽りの笑顔だけになり
家族が遠くなって
私が遠くなって
見えなくなった
ふと考えると
「いってきます」
そんな声が響き
無邪気な子供で
家族と出かけることが多くて
みんなでいることが多くて
笑ったり泣いたりして
私が私でいることが
当たり前だったあの頃を
思い出すのです
けれど
ふと気がつくと
「いってきます」
そんな声が響き
ひとりじゃなくなって
普通に笑って
普通に泣いて
今度はきみが
私を私にしてくれた
今度はきみが
私にくれた
あたたかな言葉
「おかえりなさい」
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