第10話

 その後の四回戦は二学年の騎士科の男子生徒との闘いだったが、危なげなく突破した。残るは準決勝と決勝のみ。まずは準決勝だが相手は予想通り王太子だった。イケメンで頭もよく剣の腕も確かでそれに権力も財力もある。さすが筆頭攻略対象者って感じなのだが女性関係がだらしないのが欠点だ。


(私は好きになれないけど優秀なことには間違いないのよね。顔合わせの時のことは子どもの戯れ言ってことにしてあげるけど、次は容赦しないわ)


 係のものに呼ばれ控え室を後にする。会場に着くとちょうど王太子もやってきたようだ。王太子の登場で会場が盛り上がるなか王太子が私だけに聞こえる声で話しかけてきた。


「ブルー…いや、ダリアローズ嬢、あの時私の発言で不快な思いをさせてしまい申し訳なかった。今さらだが謝罪させてほしい」


 王太子が頭を下げないながらも謝罪の言葉を口にしてきた。


(こんなところで王太子が謝罪するなんて!誰かに聞かれたらどうすんのよ!)


「はぁ…王太子殿下、謝罪は受け入れますが本来はこのような場では控えてください。今の私はただの平民です。不敬罪で訴えられたらどうしてくれるんですか」


「…次は気を付けよう」


「次はないので結構です。それに謝罪を受け入れたと言っても約束はちゃんと守ってくださいね」


「あぁ、もちろんだ」


「試合も負けるつもりはありませんのでご了承ください」


「分かっている。むしろ本気で相手してほしいと思っていたところだ」


「それは殿下次第ですね」


「これは手厳しいな」


 そう言って王太子が微笑んだ。それを見た見学席の女性達からは黄色い悲鳴が上がった。顔合わせの時と違って私に対して友好的に接しているのを見ると、どうやら私の価値に気づいたらしい。私がこの国に与える影響を調べたのだろう。私としては調べられても困ることはないし、その結果が王太子や国王への牽制になるのならそれもいいだろう。

 王太子と剣を構えて向かい合い試合の開始を待つ。


「それでは準決勝です!始めっ!」


 合図と同時に王太子が攻撃を仕掛けてきた。それを私は軽々と避けながら王太子の足を払う。


「っつ!」


 王太子がバランスを崩した隙にがら空きの体の側面に剣を打ち込むが、ギリギリのところで剣で攻撃を防いできた。


「やりますね」


「っはあ、全く本気を出してないあなたに言われても嬉しくないですね」


「ふふ、確かに本気は出してませんが王太子殿下の腕はなかなかだと思いますよ」


「あなたにお褒めいただけるなんて光栄です、ねっ!」


 王太子は力ずくで私の剣を弾いてきた。さすがに補助魔法無しでは力で男性に勝つのは難しそうだ。改めて剣を構え直し得意の速さを活かして攻撃を仕掛ける。


「くっ!」


 あまりの速さに王太子は何とか攻撃を受け止めているという状況だ。


「これを受け止めますか。…やっぱり攻略対象者ね」


「っ、何か言ったか?」


「いいえ、何も。さて殿下、そろそろ終わらさせてもらいますね」


「なっ、まだまだっ!」


 勢い良く攻撃してきた殿下の剣をいなしてその隙に背後をとり、王太子が振り向くより速く剣を首もとに当てた。


「試合終了!ダリアローズ嬢の勝ちっ!」


 会場から歓声や悲鳴が聞こえてくるなか私は剣を下ろした。


「これは女性達に恨まれてしまいましたかね」


 王太子が苦笑しながらこちらに振り向いた。


「いや、男性も女性もあなたの闘う姿を見て美しいと思ったのでは?」


「ふふっ、さすが殿下ですね。女性へのお世辞がお上手ですこと」


「…今のは私への嫌味か?」


「未来の王太子妃様が悲しまれますから女性とのお付き合いはほどほどに。それでは私は次の準備がありますので失礼させていただきます」


「…善処しよう。あぁ、今日はあなたと闘えてよかった。決勝も頑張ってくれ」


「ありがとうございます」


 この前までの王太子とは随分と変わったようだ。あとは女性関係が落ち着くといいのだけど。王太子妃になる女性を泣かせることがないよう願うしかない。そうして私は試合会場を後にした。





 試合会場に残った王太子はふと思った。


「…楽しかったな」


 そう呟いて会場を後にした。


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