第7話
あれからすぐに書類を提出し、無事にブルー家から除籍することができた。私は本当の意味での自由を手にしたのだ。
(これで私は『ハナキミ』とは無関係よ!除籍しなくても王太子の婚約者になること無いはずだけど貴族令嬢じゃなくなれば絶対にあり得ないからね。それにあの人達と家族だなんて嫌だったし)
ただアナベルにはすごく心配をさせてしまったようだ。あの日の翌日、アナベルが目に涙を浮かべながら私に駆け寄ってきた。
「ダリア様っ…!」
「ベル…!?心配をかけてしまってごめんなさい。私は無事だから安心して?」
「っつ、はいっ…。ダリア様と別れてから心配で心配で…。ご無事でよかったです」
(あぁアナベルを泣かせてしまうなんて私としたことがっ!)
「ベル泣かないで。しっかり解決してきたからもう大丈夫よ。ただ除籍の書類を提出したら私は貴族令嬢じゃなく平民になってしまうんだけど、それでもこれからも私と友達でいてくれるかしら?」
「っ、もちろんです!身分なんて関係ありません!ダリア様も私とずっとお友達でいてくれますか?」
「もちろんよ。ありがとう」
アナベルが身分で友人を選ぶとは思ってはいなかったけど、少し不安になったので聞いてみてしまった。少し恥ずかしくなったので話を変えてみる。
「実はね私には血の繋がりはないけど大切な家族達がいるの。ベルが嫌じゃなければ今度紹介したいのだけど、どうかしら?」
「本当ですか!?ぜひお会いしたいです!」
「ふふっ、よかった。近いうちにまた声をかけるわね」
「はいっ!楽しみにしています」
泣かせてしまって申し訳なかったけどその流れで家族を紹介する約束ができた。なるべく早く紹介できたらいいな。
―――
それから少し時が経ち、学園で剣術大会が開かれる時期になった。学園では毎年春に剣術大会、夏に魔法大会が開催され、秋に各大会の優勝者同士でその年の頂点を決めるのだそうだ。
(こんな催しをやってるから騎士と魔法士が更に仲が悪くなると思うんだけど…まぁ大会がある方が生徒達のやる気が違ってくるのも分かるけどさ)
どちらの大会も参加は誰でもできるそうだ。ちなみにアナベルは今年はどちらの大会にも出ないことに決めたようだ。全学年参加なので三学年の生徒が優勝するのがほとんどなので一学年からの参加は少ない。そのなかで女子生徒の参加は私だけのようだ。今の騎士科はどの学年にも女子生徒は在籍しておらず、魔法科の他の学年の女子生徒は魔法大会には参加するようで、経営科と普通科からは剣に覚えのある男子生徒が数名参加するそうだ。
一試合の時間は五分で剣は訓練用の剣を使い、剣以外に使って良いのは体術だけというのがルールだ。もちろん魔法も使用不可で相手が戦闘不能や降参すれば試合終了になるが、五分経っても決着がつかない場合は審判による判定で勝者が決まる。怪我人が出た時のために治癒士がスタンバイしており、希望者がいれば治癒士の手伝いをすることができるとのことでアナベルが参加を希望していた。
「ベルは治癒士の手伝いに参加するのね」
「はいっ!せっかくの貴重な機会なので少しでも勉強できればと思いまして」
「確かに滅多にない機会だものね。色々と学べるといいわね」
「色々学べたらいいなとは思ってますが、怪我人が出ないことが一番です…。ダリア様はお強いので大丈夫だと思いますが、無理をして怪我しないでくださいね!」
「いつも心配してくれてありがとう。無理はしないと約束するわ」
そして大会の日がやってきた。大会はトーナメント方式で最後に勝ち残った者が優勝だ。初戦の相手は抽選で決められ、先ほど対戦カードが発表された。
(うわっ、私のいる山に攻略対象が三人も。えーと、ランドルフは別の山でマティアスは不参加だったな。本当だったら優勝者とアナベルのイベントが発生するんだけど優勝するのは私だからごめんね、攻略対象者達!)
出場者は自分の出番が来るまで個室の控え室で待機になる。公平を期すため他の出場者の試合は見ることが出来ないようになっているのだ。大会に参加しない生徒は闘技場の見学席で試合を観戦しており、そこの見学席にも私が作った結界の魔道具が使われているので安全に観戦することができる。ちなみに結界の魔道具が使われる前までは見学席に剣やら魔法やらが飛んできて見る側もかなり危険だったようだ。魔道具が導入されてからは大会出場者の家族も観戦できるようになり、非常に盛り上がるイベントになっている。そして私は控え室で一回戦の相手のことを考えていた。
--フィンメル・イエロー
黄色の髪に黄色の瞳の腹黒キャラだ。上級貴族イエロー家の長男で父は王国の宰相である。母はフィンメルが幼い頃に亡くなっており父と妹の三人家族だ。
宰相である父から『全てを疑え』と教育されてきたため、表は笑顔を振り撒きながらも裏では全てを信じられない人間になってしまった。ただそんな彼が唯一心を許せるのが病弱な妹だった。妹が外出先で倒れた時に偶然通りかかったアナベルが妹を助けるのだが、フィンメルはこれを偶然ではなく上級貴族に恩を売りたい下級貴族の仕業だと疑いアナベルに冷たく当たる。それでもめげずに治癒士を目指すものとして妹を看病し続けるアナベルの姿にフィンメルは心惹かれていく…
(な、なんとか思い出せた…!何考えてるか分からないやつとは関わらないのが一番なんだけど、確か王太子の側近だったな)
王太子から婚約について何かしら説明されていてもおかしくはない。ランドルフは脳筋だから私と接触しても気にならなかったんだろうけど、フィンメルは私を警戒している可能性がある。まぁ警戒されたところで私は問題ないけれどアナベルにあまり心配をかけたくないなと思っていたら私の出番になったようで係のものが呼びに来たので控え室から会場に向かうのだった。
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