第63話 ヘクトルへのご褒美
暗い雰囲気になったところで、ミナトが言う。
「まあ! わかんないならしかたないね!」
「わふ~」
「そだね! ヘクトル、ほこらで祈ってみようよ!」
「よろしいですかな?」
「もちろん!」「わふ~」
ヘクトルは真剣な話が続いていたので、祈りたいのを我慢していたのだ。
ここはほこらに近いが、ほこらのすぐ前ではない。
だから、みんな一緒にほこらのすぐ目の前まで移動した。
「なにが起こるのかしら……」
「タロ様に祝福したのをアニエスが祝福されたように誤魔化した件でしょ? 大丈夫?」
アニエスとサーニャは心配そうだ。
「まさか、神罰は落とされないと思いますが」
「はわわ」
マルセルとコリンも少し心配そうにヘクトルの様子を見守っている。
だが、ミナトとタロはいつも通りだ。
「あ、そうだ。色々教えてくれたお礼にあんパンを供えておこう」
「わぁぅ!」
タロは「それがいい!」と賛成する。
「えっと、この像に……」
ミナトはサラキアの鞄からあんパンを二個取り出すと、ほこらに供える。
「サラキア様、至高神様、美味しいあんパンです。食べてください」
「わふわ~ふ」
そうミナトとタロが祈りを捧げると、あんパンはスーッと消えた。
「え? 消えたです? え?」
「びっくりしますよね。うんうん」
最初見たとき、自分も驚いたアニエスがどこか嬉しそうに頷いた。
ミナトとタロがあんパンを供えた後、ヘクトルはほこらの前で跪いた。
「天にまします至高なる神よ。卑小にして罪深き我を救い給え。赦し給え……」
すると、雲の合間からピカーッと光が差して、ヘクトルに当たる。
「……お、おお……」
ヘクトルは空を仰ぎ見て、涙を流している。
「どした? ヘクトル」「わ~う?」
「ミナト、タロ様。わしは幸せ者ですな」
「それはよかったよー」「わふぅ~」
ポロポロ涙を流すヘクトルを十秒ほどミナトとタロは黙って見守った。
「で、至高神様に、なにをもらったの?」「わふふぅ~?」
ミナトとタロは好奇心に満ちた目でヘクトルを見つめている。
「腰痛や肩こり、関節痛を癒やしていただきました……」
「それだけ?」「わわふ~?」
「それだけではありませぬぞ。目と耳、筋肉、心肺機能の衰えも和らげていただきました」
「へー?」「わぁぅ~?」
若いミナトとタロにはありがたさがわからなかった。
口には出さなかったが、若いコリンやマルセルたちも同じようなことを思っていた。
アニエスだけは「おお~」と驚いている。
「それだけとはとんでもないことですぞ? これがいかにありがたいことか!」
だが、ヘクトルは力一杯そのありがたさを説明する。
「老化による衰えで起こる腰痛などには治癒魔法は効かないのです。もっとも――」
ぎっくり腰などの急性の痛みのほとんどには治癒魔法は効く。
だが、慢性的な痛みには効かないことも多い。
「そうね。うん治癒魔法が効かない腰痛も多いわね」
治癒魔法の世界的第一人者、アニエスもうんうんと頷く。
「そうなの?」「わふ?」
「そうなのですよ。内臓が弱ったり、目が見えにくくなったり、耳が聞こえづらくなったり」
それらは一つ一つは疾患といっていいかもしれない。
だが、加齢によって誰にでも起こることだ。
「疾患といえば疾患だけど、筋肉が衰えたり、顔にしわができたりするのと同じなの」
「なるほど~」「わふ~」
加齢による疾患を全て治癒魔法で抑えられるのであれば、人は不老になれる。
「ヘクトルが苦しんでいたのは、加齢による疾患で、それを治してくれたってことね」
「至高神様が、これまで以上にタロ様に尽くすようにとおっしゃっているのでしょうな」
そして、ヘクトルはタロに跪いた。
「これからもどうかよろしくお願いたしますぞ」
「わぁぅわふわふ」
タロは「よろしくね」と言いながら、ヘクトルの顔をベロベロ舐めた。
それから少しの間、ヘクトルは体を動かす。
腰痛や関節痛が無くなった状態ででどのくらい動けるのか確かめたのだ。
「おお、素晴らしい。腰が痛くないというのがこれほど快適だとは……」
ヘクトルはしばらく感動していた。
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