第2話

私の名前はルーシア。

この宇宙ステーションでシステムエンジニアをしている。


総員退避の警報は、コンピュータの不具合による誤報なのだろうか。

私は相棒のロボット「シスタン」と共に、メインコンピュータの点検を行う。


「シスタン、総員退避命令出したのは誰? キャプテン?」


「キャプテン カラデハ アリマセン。ボナパルト カラノ 指令デス」


「じゃあ、ボナパルトに問い合わせて!」


「ハイハイ、ショウショウ オマチヲ……」


シスタンは呑気なものだ。

それにしてもボナパルトめ、やってくれるわね……


「ダメデス。ボナパルトニ アクセス デキマセン」


「どういうこと? あなたには管理者権限を与えているんだから、ボナパルトにアクセスできるはずでしょ?」


「ボクノ アカウントガ ブロック サレテ イマス。キット ボクガ イケメンダカラ ボナパルトガ 嫉妬シテ……」


「そんなわけ、ないでしょ!」


ますます、イライラしてしまう。

ちなみに、「ボナパルト」というのは、この宇宙ステーションのメインコンピュータの愛称だ。

自動進化型のAIを搭載しており、この宇宙ステーション内のほぼすべてのシステムを制御している。


私のような人間のエンジニアだけではボナパルトの制御が難しいため、助手のロボットと一緒にボナパルトの管理をしている。

で、さっきから空気を読まない発言をしているこの助手ロボットの名前は「シスタン」。

私が作った、プログラミング支援ロボットだ。

「アシスタント」から中の文字を抜き出して、「シスタン」と名付けた。


宇宙ステーションでの息が詰まるような日常が、少しでも楽しくなるようにと思って、シスタンに搭載したAIは、ちょっとおふざけな発言をする設定にしてみたのだが、それが間違いだった……


こんな緊急事態にも間の抜けた会話をしてくるとは、あまりに空気が読めなさすぎる……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る