*二*
「女王陛下。……お母様。ただいま参りました。」
「入れ。」
扉番のセイレーンに扉を開けてもらい、メロディーアと銀花は玉座の間へと進む。
巨大な貝殻で作られ大粒の真珠と金や銀で飾られた玉座には、メロディーアの面影を宿しながらも威厳に満ちた、王冠を戴いたセイレーンが座していた。
「クレッシェンド、デクレッシェンド、ユーフォニア、フーガ、ジーグ、アコール……。そしてお前、……バルカローレ。」
「はい、お母様。」
銀花は困惑する。どういうことだ。このさっきから私と一緒にいるこのセイレーンは、『メロディーア』という名ではないのか。
「ちょっと待って。貴女の名前は」
「良い。私から話す。……異世界からの花嫁よ。」
女王に遮られ銀花は小さくうなずくとそのまま静かに話を聞く。
「まず。この娘の本来の名はバルカローレ。またの名をメロディーア。このローレライにおいて、ハーモニアとは代々の女王が受け継ぐ名であり、メロディーアとは次の女王となる者に与えられる名と定められている。……つまり。この娘の元の名はバルカローレであるが、今はメロディーアがこの娘の名だ。」
「ご説明、ありがとうございます。」
「良い。異世界からの客人よ。
「女王陛下。寛大なお言葉に、感謝いたします。」
「異世界からの客人よ。其方の名はなんと呼ぶ。」
「私の名は銀花と申します。ギンカとお呼びください。元の世界では、雪女と呼ばれる妖にございます。」
「ギンカというのだな。良い。」
女王の視線は銀花からメロディーアへと移る。
「して。メロディーア。」
「はい、女王陛下。」
「『間界の婚姻』はお前が独断で行ったことだな。」
「……はい。その通りでございます。女王陛下。私が一人で、勝手な判断で、儀式を執り行いました。」
「えええっ!」
「申し訳ございません。お母様。ギンカ様。」
メロディーアは毅然と応えている、ように見えるけれどその目は泣きだしそうに震えている。
玉座にいる女王から見えるかはわからないがすぐ隣にいる銀花にはよく見えている。
「どうするつもりだ。」
メロディーアは泣きそうになりながらも口をきっと結び、目を据わらせて銀花を見据えて告げる。
「私が、ギンカ様の花嫁となります。」
女王はほんの少し呆れたような表情を洩らしたが、すぐに表情を硬く戻しメロディーアに向きなおる。
「やれやれ。それはお前が一人で決められるものではない。女王の私にも、だ。それを決めるのはお前ではなく、『間界の花嫁』ギンカだ。」
女王はメロディーアと銀花の二人を見つめ話す。
「メロディーアよ。これはお前が始めたことだ。ゆえに、全ての責任をお前が負うのだ。私は何も口を挟まぬ。これからのことを、お前は一人で決めるのだ。」
メロディーアは泣きだしそうな目のまま玉座にいる女王を見つめる。
「ギンカよ。メロディーアが其方の相手と決まったわけではない。他の者が良ければ其方の意に沿う。」
女王から銀花に向けられた言葉を聞いて、メロディーアはさらに泣きだしそうになっていく。
「これからのことはお前たちで決めるのだ。私からの用件は以上だ。下がれ。」
女王に促され、メロディーアと銀花は玉座の間から立ち去った。
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