その死神は優しく抱きしめる
みなみくん
第1話 1st...
痛え
熱い
息苦しい
ブリクストンの路地裏の一角
人通りは無い
ないっつうかないここへ逃げてきたから当然なんだけどな
肩と肺辺りと脇腹か
血だらけで分かんねーけど
痛みが強いし、衝撃が走ったのその辺だからそうなんだろうな
2、3発もらったか
肩は弾貫通してるしちょっとえぐれたくらいだけど、脇腹と肺辺りはやべえなこれ
男は力無く壁を背に崩れ落ちた
日本人の男は、日本にいた頃
所謂、反社会勢力の人間だった
退屈な毎日に嫌気をさし
スリルを求め飛び込み
それでも飽き足らず海外へ渡った
パキスタン、サウジアラビアを渡り歩いたが空気が馴染まなかった
行き着いたのはロンドン
好戦的なマフィアグループと接触し、居着くことになった
狙わられている富裕層の身辺警護の際、比較的治安の悪くない場所で敵対する組織に襲撃を受け、依頼者を相手から撒くべく散り散りになり、男は交戦しながら1番近いブリクストンへフィールドを変えた
依頼者を逃がす為以外にも一般人にも被害を出さない為に
運悪く、男が引き付けた相手は所構わず乱射する凶暴な人間だった
そして、そいつはさして原因は思いあたらないが、兼ねてからの因縁のようなものを持たれている相手だった
Perygl Dyn
お互いがその通り名を周りにつけられ
日本人の男、大宮はさして気にしなかったが、相手のオリバーはそうでなかった
日本という島国から流れてきた流れ者の若造が、自分と同じ通り名で呼ばれているのがたいそう気に入らなく、初めて顔を合わせた時から殴り合い、撃ち合いになった
素手には男に分があった
幼少期から続けていた空手、合気道
オリバーは、特に合気道を使われると訳も分からないままに地面に倒れ込む事が多々あった
生まれも育ちもこの場所で、誰からも恐れられていた自分が素手の喧嘩でガキに負けた
その屈辱は彼の人生で一番のものだった
銃の腕は子供の頃から扱っている自分の方が1枚2枚と上手だったが許せなかった
必ず殺す
その機会が今日だった
混乱の中、大宮は一般人の子供を庇い右肩を被弾し、
慣れない左手で応戦し続けた
ブリクストンの路地裏までなんとか応戦しながら誘導するも
被弾を重ね崩れ落ちた
最後の力を振り絞り、倒れ込んだ所にトドメを刺すべく近づくオリバー隙をつき持っていたベレッタを投げつけ、一瞬の視界を塞いで首投げを繰り出した
オリバーの首は生きてはいない方向へ曲がっていた
物心かついてから10代、格闘技に刺激を求め、飽き足らずリングから更なる危険な場所へ、それから2年して渡航、1年してここに腰を落ち着かせ
22歳で満足する場所へ辿り着き命を賭ける日々に満足していた
短い人生の中でこの男オリバーが最も危険で狂っている最凶の相手だった
その男も、先程肉塊と化したが
世の中もっとやべー奴いるのかなぁ
途切れそうになる意識の中
大宮は思った
それは少し残念に思ったが
満足感もあった
ほんの少しではあるが自分の方が生きている
勝った
少なくとも自分の周りに居た一般人は死なせずに済んだし、良かった
刺激を求めた最果ての今
大宮の命は尽きようとしていた
ゴールは決まっていなかったが、不完全燃焼のような気持ちは無かった
任務も果たしたし、少なくともこの街の1番大きな組織の最強の武闘派を倒した
充分か
そう思い痛みを堪えながら笑みを浮かべた
じいちゃん、じいちゃんは怒るだろうけど
自分の一番の拠り所の合気でここ一番の勝負に勝ったよ
と言っても、日本では消息不明になっている祖父には分からないままこのまま灯火が消えて終わるのだが
取り寄せたセブンスターに火をつける
手は震え、億劫だったがなんとか煙を吸い込む
吐き出す煙と共に咳き込み鮮血に口元を滲ませる
あー
悪かねえ
視界も段々とブレて、見えなくなっていく
彼が唯一決めていた、一般人を自分の荒事に巻き込まない
それも守ることが出来て
愛煙する人生最期となろう一服とともにもうほんの少しで訪れるその時を待った
「楽しかった?」
不意に声が聞こえた
幻聴だと思った、若しくは自身が無意識に自問自答した声だと思ったが違った
自分とそう変わらない、それよりも少し幼い年頃に見える女(少女?)が目の前に突然現れ問いてきた
銀色の髪に赤い瞳だがまんまの日本語、アジア、、、日本人?なんでこんなとこに?
いつの間に?
てか、瀕死の人間を見て動じない
なんだこの子
幻覚幻聴なのかと再度思ったが
思考があまり回らなくなってきていた
「あ、げふっ、、危ねぇぞこんなとこ居たら」
質問を無視して大宮は少女に言った
もし他に追っ手がいたらこの子がまずい
それだけがよぎった
「大丈夫、あなた以外に見えてない」
何を訳の分からない事を
その言葉の意味を考える余裕も最早なく、兎に角立ち去る事を促さねばと思ったが、それよりも矢次に言葉が来た
「あたし、死神だから大丈夫だよ」
何が大丈夫か分からないし
死神などと訳の分からない事を言う少女
しかし、殆ど考えることも出来ない大宮でも確信した
視界もぼんやりとして周りはぼやけて来ているのに
ハッキリとその少女の姿だけ認識出来て、理由は分からないが姿形は人間だが、人間として感覚的に絶対的に認識出来なかった
死にかけて幻覚見えるんじゃなくてホントにいるのか
何故か素直にそう思えた
「あたしはマリア、迎えに来たよ」
なんで死神なのにマリアなんだよ
声には出なかったが口にした
「悪人の癖に珍しい生き方したね」
したね、、
いや、まあ誰がどう見てももう死ぬから正しいけど、動じることもなく救急を呼ぶそぶりもなく完結した言い方
てか悪人じゃねえよ、一般人は殺してないし
あ、殺し自体悪人か
まあいいや
ご苦労さんなこって
「仕事だから」
心読んでんのかよ
「そそっ、ほら、死にかけの幻覚幻聴じゃないでしょっ」
語尾に☆や♪が付きそうな口調で言う死神
「だから、マリアだって」
どっちでもいいだろ
「まあいいや、思い残すこととか走馬灯見たいとかある?」
無えよ
「潔いねぇ若いのに」
お前も若いだろ
「あと数分か、、」
俺の言葉(喋ってないけど)を無視して数分と告げる
死ぬまであと数分って事か、この流れ
「自分の中の欲望を通して生きて、けど悪人の癖に非道ではない、及第点だね」
訳の分からんことを
思った瞬間
俺は壁を背に冷たいアスファルトに崩れ落ちて居た体勢から死神の膝の上で抱きしめられていた
なんだよ
トドメか?
「及第点だから、苦しまずに終わらせてあげる」
本当に意味がわからない
失血しすぎて冷たい痛みと麻痺と殆ど見えなくなった視界が変わった
とても温かく、痛みが無い
「安らかにゆっくり眠りなさい」
安心感に包まれる
髪を撫でられる
「俺はハタチ過ぎてんだ、子供じゃ、ねえんだぞ」
ハッキリと喋れた
「男なんて女の前じゃ子供でしょ」
減らず口が返ってきた
うわ、なんとも情けねえ最後になっちまっちまう
「1人で宿敵を倒して誰も居ない暗い路地裏で死ぬのがかっこいいとか全然かっこよくないからね」
そういうこと言うなよ
別にかっこいいと迄は思ってねえよ
「こんな可愛い子に抱きしめられながら逝くんだから最後に宝くじ当選じゃん」
死神とか分からんけど
全く要素ないな
「感動して泣き崩れてもいいとこなのに、やっぱりほんと変な人ね」
やっぱ?
やっぱりって、、なんかおかしいぞその言葉
まるで、俺を前から知ってるような言葉じゃないかそれ
そう思い口にしようとした瞬間、急速に眠気が来て言葉に出せなかった
いや、心読んで喋ってたから返答くるか
と思えるような余裕も無く意識が沈んでいく
数分、、、頃合って事か
「逝きましょうか」
途切れる瞬間、唇に温かい感触があり、それを理解する前に、、、、
1st...end
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