第17話 教習所の謎

「最初になんかおかしい、と思たんはシールドのことなんや」

 両津の言葉に、全員の顔にハテナマークが浮かぶ。

「両津くん、シールドってなんのこと?」

 この中で一番分かっていない表情のひかりが聞いた。

「ボクが爆発事故に巻き込まれたの、みんな知ってるやろ?」

 思い出すのも嫌そうにそう言った両津に奈々が言う。

「南郷教官の新型ロボットが爆発したんでしょ?」

 正雄が、なるほど、と言う顔をした。

「俺の葉巻の火が引火したヤツだな」

「ちがうわよ!あんた葉巻を吸うポーズしてただけで、本当は吸ってなかったじゃないの!」

 奈々が突っ込んだ。

「君は怒ると眉毛が……」

「それはもういいから!両津くん、続けて」

 そんなドタバタトークにクスリとも笑わずに、両津は話を続けた。

「あんな大爆発のそばにいたのに、ボクも南郷センセも大した怪我してへんの、不思議やと思わへん?」

「そう言われると、そーかもしれませんね」

「謎です〜」

 奈央と愛理もうなづいた。

「南郷センセによると、この教習所には他には無いすごいシールド技術があるんやて。それで、爆発した瞬間にそのシールドで爆発のエネルギーを包み込んで、ほぼ無効にできるみたいなんや」

「どういうこと?そんな技術、聞いたこともないわ」

 奈々がいぶかしげな表情になる。

「ボクもや。どうやらそれにちょっとだけ失敗してエネルギーが漏れて、ボクは気絶したらしい。で、気がついたら医務室のベッドや」

 その場の全員がなんとも言えない表情になる。それっていったいどういうことなんだろう?皆理解が追いつかないのだ。

「ボクが疑問に思ったのは、ロボット教習所に、なんでそんな技術があるのか、そこやねん」

「でも、今回みたいな事故を防ぐために導入されているんじゃありませんの?」

 奈央の疑問に奈々が答えた。

「それなら、ここの外にもその技術はあるはずでしょ?ロボット関係の技術書はあらかた読んだし、最新の情報も毎週読んでる工学雑誌とかに載るはずだし……私が知らないなんて怪しすぎるわね」

「そうなんや……で、ちょっと怪しいと思たら、他にも分からないことがゾロゾロ出てきたんや」

 みんなが息を呑む音が聞こえた。

「南郷センセによると、この教習所て予算が無くて、結構貧乏らしい。まあそれはあの人らしい冗談かもしれへん。でも、どう考えてもおかしいのは、こんなに生徒数が少ないのに、施設とか設備、機材が豪華すぎへんか?」

 この教習所にあるクラスはふたクラス。合計しても生徒数は五十人に満たない。それにしては最新の設備や教習用ロボットが揃っている。

 あ、そう言えば医務室もすごかったな……と、ひかりは思い出していた。教官や事務の人たちを加えても、ここの総人数は百人を大きく下回る。そのためだけに、あんなに高そうな機械や、あんなに広い病院が必要なのかな?ひかりは気づかぬまま首をかしげていた。

「棚倉くんやマリエちゃんとか、同系列の海外校からの交換留学生も、かかるお金は全て教習所が出してくれてる」

 正雄がニヤリとする。

「最高じゃないか!」

「交換留学生だけやないで、ボクら生徒の全員が特待生で、衣食住の全てをここが面倒みてくれてるやん。制服は無料で支給されてるし、学食はタダ、寮の家賃もタダ!」

 タダを強調する両津に奈央が反論する。

「それは、国からの補助金でまかなっていると聞いていますわ。全くお金がかからないと聞いて、私は参加したのです。コストパフォーマンスが最高ということです」

「愛理、お小遣いだけはパパから送ってもらってます〜」

 両津はそんなことは知っているとばかりに、奈央に言った。

「でも、それならここはどうやって利益を出してるんや?」

「確かに……必要経費は補助金でまかなっているとしても、株式会社としての利益、儲けが全くありませんわね……」

 両津が、わけが分からないという風に両手を広げる。

 奈央が言う。

「どう考えても、採算が取れているとは思えませんね〜」

「さいさんてなあに?」

 愛理が聞く。

「鼻のところにツノがあるおっきな動物だよ」

 ひかりが答える。

「それはサイ!」

 奈々が突っ込む。

「サイさん♡」

「俺のサインならいつだって書いてやるぜ」

「サインじゃなくてサイサン!再三そう言ってるじゃない!」

「あ、奈々ちゃんがダジャレ言った」

 またいつものペースに戻ってしまったみんなを見て、両津が食事を再開する。

「ボクは南郷センセにもうちょっと探りを入れてみるわ」

「ほい、スキあり!タクアンいただき!」

 正雄が両津のトレーからタクアンを強奪した。

「棚倉くんサンドイッチやん!一緒に食べへんやろ普通!」

「タクアンはパンにピッタリと合うのさ」

「うきーっ!」

 悲鳴ともつかない両津の声が学食に響いた。

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