第16話 学食

「今日のA定食、とってもおいしいです〜」

 愛理はそう言うと、学食名物日替わりA定食のデミグラスハンバーグをひと切れ、その口に放り込んだ。じわ〜っと溢れてくる肉汁とデミグラスソースが混ざり合って、極上の味わいだ。

 今は昼休み。ひかり達はいつものように、教習所内の学生食堂、学食でランチを食べている。

「奈々ちゃん、私もハンバーグ食べたいな。ひと切れほしいな」

 ひかりが隣に座る奈々に、子犬のようにうるうるとした視線を向けている。

「あんた自分でお子様ランチにしたんでしょ?ハンバーグなら、明日にでも食べればいいんじゃない?」

 ひかりのお願いをアッサリと断る奈々。

「だって、明日の日替わり定食は日替わりなんだし、きっとハンバーグじゃないよ〜」

 簡単にはあきらめきれないらしく、ひかりの目はさらにうるうるとして奈々を見つめている。

 今日のみんなのメニューは、ひかりがお子様ランチ、正雄がクラブハウスサンドイッチ、両津が鯖の塩焼き定食、そして奈々、奈央、愛理が日替わりA定食だ。

「じゃあ、お子様ランチ名物の小旗、奈々ちゃんにあげるから、ハンバーグと交換しよ?」

 ひかりの前のプレートには、丸い小山のように盛り付けられたチキンライスがあり、そこには爪楊枝を軸にした紙の旗が立っている。それをスッと抜き取るひかり。

「ほら、サモアの旗って珍しいんだよ、奈々ちゃん」

そんな二人のやりとりを聞いていた奈央が聞く。

「あら泉崎さん、もう奈々ちゃんて言われても怒らないのですね」

 不思議そうな顔つきである。

「ホントだ、泉崎センパイいつから怒らなくなったんですか?」

 愛理も小首をかしげて聞いた。

「泉崎くん、君は怒ると眉毛が……」

 そう言いかけた正雄の言葉をさえぎって奈々が言う。

「もうあきらめたのよ。遠野さん、いくら説明してもすぐに忘れちゃうから」

 あきれたような口調でそう言うと、奈々はハンバーグを口に入れる。

「あれえ、そうだっけ?」

 そんなひかりを呆れ顔で見てから、奈々はハンバーグをフォークで千切り、そのひと切れをひかりに突き出した。

「分かったから、はい、あ〜んして」

「あ〜ん……ぱくっ」

 ひかりの顔がパッと明るくなる。学食のハンバーグは本当においしい。

「遠野さんだけずるいです〜、私も泉崎センパイのハンバーグ食べたい〜」

 そう駄々をこね始めた愛理に、奈央がキョトンとして言う。

「どうしてです?愛理ちゃんも同じハンバーグ食べていますよ?」

「そういうことじゃないんです〜」

 ぶすっと頬をふくらませる愛理。

「ありがとう奈々ちゃん!じゃあこれ、小旗あげる」

「ありがとう……一応受け取っておくわ」

 そんなやりとりを聞いていなかったのか、両津が少し真剣な声で切り出した。

「ちょっとみんなに聞いてほしいことがあるねん」

 いつにない真面目な表情に、ワイワイと盛り上がっていた一同が静かになる。

「ヘイ、ウエストピーポー、どうしたんだい?そんなに真面目な顔をして」

 正雄が軽く尋ねる。

「ウエスト……ピーポーって……腰と救急車?」

 ひかりの疑問に奈々がすぐさま答えを出す。

「きっと関西人のことを言いたいのよ」

 ああ、と納得の表情になるひかり。そんなみんなをゆっくりと見渡してから、両津は口を開いた。

「前から不思議に思ってることがいくつかあるんや。俺って、最初はみんなと同じクラスやったやん?」

 一同がうなづく。

「なのに突然、俺だけが南郷センセに呼び出されて特別授業の毎日やん。これってなんでなんやろ?」

 ひかりがう〜んとひとつ唸って両津に向き直る。

「きっと両津くんが優秀だからだよ。だから南郷教官が、まんつーまんで教えたくなったんだと思う」

「そうかなあ……」

 両津は納得していないようだ。

「南郷センセには聞いてみてん、なんで俺だけ別クラスなんですかって。俺に何か才能とかあるんですかって」

 みんなの顔が興味深げになる。

「ほんならセンセ、そんなもんな〜んにもあらへん、て言うんや」

 両津による南郷のモノマネはなかなか上手い。

「それだけやない、この教習所って、なんかおかしいと思わへんか?」

 顔を向け合い、小首をかしげるみんな。

「どんなところがおかしいのよ?」

 奈々の疑問が飛ぶ。

「例えばやな……」

 両津はより真剣な眼差しで話し始めた。

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