禁忌
壁に激突したボルドーは何とか気を失なわなかった。しかし、それなりの深手を負った。
「クソッ…………ここまでか」
朦朧とする意識の中、地面に転がった球体を見つけた。
『これは…………』
怪しいヤツから貰った『黒の宝珠』だった。
懐に入れていたのが落ちたのだ。
『こんなものに頼らなくてもオレは───』
「クハハハッ!!!これは傑作だ!お前ごときが実力でシオンに勝てるわけなかろうに!お前、知らないだろう?シオン達がダンジョンを攻略した事を!」
あの時の言葉が思い出された。
「お前には全てが足りない!今のままでは絶対にシオンには勝てないだろうよっ!」
今のオレはシオンの前にも立てない弱者だ!
これを使えば───
ボルドーは手を伸ばし黒の宝珠を口にした。
その時、水の竜の水飛沫で薄い霧が発生しており、ボルドーの行動が周囲に見えていなかったのも幸いした。
「倒したかしら?」
マリンは少し離れた場所でボルドーの様子を見守っていた。
ゴゴゴゴッ………
ビリビリッと会場を揺るがすほどの魔力がボルドーから立ち昇った。
「な、なに?」
突然の力の本流にマリンは驚き身構えた。
気づけばボルドーは立ち上がり大剣を持っていない右手を握った。
『これが黒の宝珠の力?』
まだ自分の変化に気付いていないボルドーは、マリンから見たら、ただ呆然と立っている様にしか見えなかった。
「水の竜、二の型ヤマタノオロチ!!!」
マリンはただならぬ雰囲気に全力で技を放った!
八つの水の竜がボルドーに襲い掛かった。
まだ呆然としているボルドーに取っては本能と言うべき反射神経で動いた。
片腕で大剣を振るっただけで八匹の水の竜が弾け飛んだ。
「なっ!?」
余りの事にマリンは弾け飛んだ水の竜を見上げて固まった。
その瞬間を見逃さずボルドーはマリンに大剣を叩き込んだ。無論、結界で致命傷は負わなかったが大きなダメージを受けてマリンは気を失った。
「し、勝者ボルドー!!!」
司会者がボルドーの勝ちを叫んだ。
ボルドーは魔力の本流は止まったが、今だに何処か呆然としている感じだった。
『これはなんだ…………』
ボルドーは酒に酔った様な感じの中で、会場を後にするのだった。
それを見ていたシオンとアッシュは───
「何が起こった?」
「ボルドーに何か異常が起こったとしか考えられない。それにあの圧倒的な魔力の圧力は明らかにボルドーのものではないよ」
険しい目で会場を見ていたシオンとアッシュはタンカで運ばれるマリンの元へ向った。
ちなみにルビーは試合中でいない。
「大丈夫かマリン!」
救護班の話では気を失ってはいるが、打撲程度で済んだらしい。
「大きな怪我がなくて良かったな」
「うん。そうだね。でもシオン、決勝は気を付けた方が良さそうだよ。ボルドーの異常な魔力、絶対何か裏がある。まともに戦うのは危険だ」
シオンは腕を組んで少し考えた。
「そうだな。油断せず最初から飛ばしていくか」
「それがいいよ。ボルドーに恨みを買っているだろうから気を付けて」
アッシュの言葉にシオンは頷くのだった。
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