『砂浜、机、ビニール袋』

鳩鳥九

第1話

ちゃぶ台をひっくり返すという古びた表現があるのだが、この場合は机を揺らすだろうか、

がちゃがちゃがちゃと切り忘れて伸びた爪で強引に揺らす。

この苛立ちの装うままに、猫の首を絞めるように、ジャンクな世界を揺すり渡るのだ。

嫌い、嫌い、どう嫌い、あの水晶のように切り刻まれた瞳が嫌い。

学校に根付いてそのまま螺旋を描きながら君臨する些末な様が、だって大嫌いだ。

絡繰り勘ぐりくるり狂って問い詰めて、そんな風に笑いやがってと押し付けて、

幾分、堂々と吐かせてやりたい。あわよくば謝罪の意を揺すぶって吐露させてやりたい。

こちら側の気持ちなんて露ほども知らないくせに、優しい言葉をかけてくる。

恰好の憑かないその出で立ちが、ボクの心象を白く白く汚して、汚していく。

だからボクは何度も地震を起こす。エンピツを落として消しゴムを落として、

揺すれば揺するほど、あなたの気分が害されれば儲けものだろう。

缶ジュース、マジックアワー、バス停、部活の匂い。

似た者道化師の引っ掻き合い。気にも留めていない傷心の証明。

どこかで、できればボクの知らないところで、小さく弱ってしまえ、

好きなことで脱落して、ボクの知覚の及ばないところで、無様に泣くような、

そんな人生をずっと選んでいればいいんだ。

不愉快で、衛生的に受け付けない。この人種だけはダメだ。

もっと逃げやすい孤高の天才であればどれだけ良かったか、

独りぼっちの堂々巡り、尻尾を追いかけるイタチごっこ、

何度でも来てしまう汚れた砂浜と、吐き気がする青春。

十把一絡げにビニールにくるんで捨てたかったチケットがあるのに、

あなたなんかが拾うってしまうから、靴底の砂をその背中に擦りつけようかと、

そのまま強引に蹴り倒して、揺すりつけた世界を押し付けて、

ひたすら意に介せないことを示して、それで全部全部忘れられたら……

それはきっと掃き溜めの美談として忘却されるというのに、

脈の打ちどころを見失った心臓が、ボクの眼球を未だに、揺らして止まないのだ。


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『砂浜、机、ビニール袋』 鳩鳥九 @hattotorikku

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