最果ての、冒険者ギルドの調査官!
ぽんぽん
カーバンクルの紅玉
第1話
あまりにも長い硬直状態が、夕暮れのガッタリア森林にひぐらしたちを戻らせた。
おれたちは木々の合間にぽっかり空いた、崖の洞穴に陣取り、外でうなり続けるカーバンクルと、かれこれ1時間以上は対峙し続けている。
奴が洞穴の中に入ってこれないよう、入口を障壁魔術で塞いでくれているのはミリアムという若い女魔術師だった。今朝、丁寧に結って頭頂部で団子結びにしていた金髪は、いつ間にか解れていた。しかし、対峙するカーバンクルにまだ疲れは見えない。それどころか、時間が経てばたつほど、その真っ黒な瞳に灯った怒りの火は、強くなっているように思えた。
「この状況、やばくないっすか?」
ミリアムの消耗具合を見て、レンがおれの耳元で囁いた。
「もうこの人たち見捨てて、僕らだけで街へ帰りません?」
おれは誰もこちらを振り向いていないことを確認すると、小さく首を横に振った。
「どうしてですか? まさか責任でも感じてるんですか?」
「そんなわけないだろ!」
つい声が大きくなってしまった。怪訝そうな表情で振り返るドニトスという大男に頭を下げ、おれは更に声を潜めて言った。
「おれだって、こいつら冒険者がどうなろうと、知ったことか。でも今この洞穴を出たら、真っ先に襲われるのはおれたちだ。今はミリアムの障壁が少しでも長く持つことを祈るほかないだろう」
「大丈夫ですよ。障壁から出たら、僕がほんの一瞬だけカーバンクルの気を引きます、その間に先輩が飛ぶ準備をしてください。僕一人くらいなら、先輩の持ってきた
「おれ、今回、〝
「は? 〝
レンが信じられないといったように、目を見開いた。まるで賄賂を持たずに皇帝に直談判しに来た、間抜けな自由民を見た時のような顔だ。おれはすかさず言い繕った。
「あれの持ち出し、所長の許可が必要なんだよ。しかも時間がなかったから決裁は自分で持ち回らないといけなかったし、係長、課長、部長、総務部長、所長、全員の小言を聞かなきゃならないなんて、面倒くさいだろう、そんなの」
「じゃあ何のために、ここについてきたんですか?」
「お前がついてきてくれって言ったから」
「はあ、信じられないっすよ、まじでありえないっす先輩」
レンは大きくため息をつき、不貞腐れるように洞穴の壁に寄りかかった。その態度に、おれはなんだか悪いことをしてしまった気分になった。だけど、冷静に考えたら、この状況、おれに悪いところなんかあったか?
おれは洞穴の外を遠目に眺めながら、どうして公正かつ清廉な公務員である自分が、夏の終わりの夕暮れに、こんな人里離れた森のなかで、命の危険に晒されなければならないのか、振り返ってみることにした。
なんせ、腹立たしいことに、時間ならまだ、たっぷりあった。
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