3-5:チャイニーズ・マフィア

「とまぁ、そんなこんなで話つけてきたで、恵美須のおっさん。」

「・・・シュコー・・・勝手にまぁ色々と・・・」

「ええやんけ、利益あんねんから。」

「・・・・・・シュコー・・・」

 旭の機転によって、喜連瓜破探偵コンビが恵美須屋の傘下になるっつー契約を交わし、話をつけて、俺と旭は恵美須屋に帰ってきた。

「しかしまぁ、東も大変やのぉ。」

「だから、最初から言ってるが、濡れ衣の元々の原因はお前だろうが。」

「しつこいのぉ。今更ンな事言うたかてしゃーないやんけ。」

「お前、都合良い事言いやがって・・・」

「・・・くだらん言い合いはすな・・・シュコー・・・」

 恵美須さんがイラッとしたのか、シンプルに怒ってきた。まぁ、今となってはどっちが悪いだのと言い合った所で、確かに何にもならない。

「それに・・・シュコー・・・色々とめんどくさい事になりそうや・・・シュコー・・・」

「・・・面倒くさい事?」

「ほぉ~?面白そうやんけ。」

 面倒くさい事、もう懲り懲りなんだけどなぁ。


「旭はまぁ知ってるやろうけど・・・東には言うとかななぁ。」

 お、出た。恵美須さんの真剣な話。いつもの”シュコー”が無くなるんだよな。

「なんすか、改まって。」

「・・・確かに、新世界西部の大体をシメとんのは、萩之組や・・・せやけど、裏では数え切られへん程の組織・・・それこそ、ヤクザ、マフィア、そんなんがゴロゴロと居るんや。」

 ・・・まぁ、ヤクザという言葉は慣れてきたとして。今度は”マフィア”と来たか。まぁ、居ない方が不自然だわな、ここまで来ると。

「それで、それが?」

「・・・変なとこ察しが悪いなぁ。・・・・・・殺人鬼として、お前に濡れ衣を着せた奴・・・ソイツはどうも、マフィアの組織の木っ端の様や。・・・西成から、連絡が来た。」

「ほぉ、マフィアの木っ端なぁ。どこの構成員や、アタシがぶちのめしたる。」

 旭よ、そんなに乗り気になるな。相手は木っ端だろうがマフィアだぞ?素人の俺でもわかる。一番敵に回したくない組織だぞ?

「マフィアの名前は・・・”玉猪龍ユーズーロン”・・・中国系のとこや。」

 Oh...チャイニーズ・マフィアが、ねぇ・・・。

「にしたって、なんでそんな所の奴が、俺に罪をなすりつけたんですかね。」

「ンなもん・・・丁度なすりつけやすそうな奴が・・・・・・偶然、そこに居ったからや。」

 簡単な理由ですこと。まぁでもそりゃそうか。仮に俺が殺人鬼だったとしても、罪をなすりつけれそうな暢気な奴が居たらそうするし。

「ええやんけ、玉猪龍。丁度相手にしたかったんや。」

 旭が手をパキポキといわせながら言った。やる気満々っすね。

「・・・というと?」

「あっこにはなぁ、萩之組も頭を悩ませとったんや。」

「あの萩之組が?」

「せや。人がシメてるとこへ勝手に土足で入って来よって、文字通り好き勝手しよる。それこそ、さっき会った喜連瓜破の2人と同じ様に、ショバ代を払わんのは勿論の事、人殺し、麻薬の密売、その他余罪諸々や。お前も見たやろ?あの団地群で頭イッた奴ら。」

 そういえば居たな、そんなの。あの時はそれ所じゃなかったけど。

「ああいう奴らがうて”嗜んどる”ヤクは、全部玉猪龍の密売品や。萩之組としては、この新世界西部だけは、新世界で唯一のオアシスにしたかったんやけどなぁ。」

 そりゃ無理があるだろ。この新世界に、オアシスって。でもつっこんだら旭に2,3発ど突かれそうな気がする。ので、やめて置こう。

「・・・で、そのマフィア相手にどうするんですか?」

「・・・まぁ、とりあえず、お前に罪を着せようとした木っ端には消えてもらおか・・・」

 ・・・ついにそのワードが出たか。”消えてもらう”。つまりは・・・

「早い話が、ぶっ殺しゃええんやろ?」

 ・・・旭の言う通りである。だがまぁ、言葉で言うだけなら簡単だが、問題がある。

「・・・マフィアの木っ端か何か知りませんけど、それって喧嘩売った事になりますよね?」

「・・・せや。そこが、問題なんや。」


 たとえ、好き勝手して罪を着せようとしているソイツが、いくらマフィアの下の奴だろうが何だろうが、恵美須屋ビジターとしてソイツを殺してしまえば、今度は恵美須屋と玉猪龍の戦争・・・もっと言えば、恵美須屋の上の組織である萩之組と玉猪龍の全面戦争に繋がりかねない。相手としては、構成員を一人失った上に、”好き勝手しやがって”意識があるだろうから。それに、この件をきっかけに萩之組を潰す事ができれば、向こうは新世界西部を支配できる。これ以上の口実はない。

「・・・どんだけ正論を重ねようが・・・それだけは避け切られへん。それについては俺も西成も・・・ひいては・・・恵美須屋も、萩之組も、承知の上や。」

「じゃあ、どうするんですか?」

「こうなったら・・・玉猪龍を根本から潰す・・・それしかないわな・・・」

「・・・ええやんけええやんけ。段々話がおもろなってきたわ。いやー、やっぱここに来て正解やったわ。けッけッけッ。」

 そんな小気味良く笑われてもなぁ。シンプルに命の危機なんですが。俺としては。

「・・・東・・・。」

「はい、なんですかね。」

「こっからは・・・自衛の事も考えとけ・・・」

 そういって、恵美須さんが俺に武器をくれた。くれた・・・のはいいのだが・・・

「あの・・・”釘バット”っすか。」

「・・・銃は高い。安上りで済むんは、それぐらいしかなかったんや・・・」

 ・・・確か、相手って銃殺メインのヤベー奴でしたよね。それ相手に、釘バットっすか。それってなんか、遠回しに死んで来いって言われてるような気がしなくもないんですが?

「まぁ?東がどォォォォしても欲しい言うんやったら?銃の斡旋をしたらんでもないで?」

 と、ま~た旭が悪い笑顔をにんまりと浮かべて言う。そういえば、コイツはあの時の玩具を含め、銃関連(といっても、恐らくは即席銃とかになるんだろうが)には繋がりがあるのか。

「いや、いいよ、コレで。」

「ほぉ。相手は銃やで?」

「そん時は、お前を頼るさ。」

「・・・へぇ。」

 これは俺個人の話だが、銃を使う気にはどうしてもなれなかった。ズルい、と思ったからだ。


 銃という物は、大抵が相手を殺す事に特化している。そうでなければ、銃とは言えまい。ただ、人間という生き物は、どうも誰かを殺す事に対して、どんな手でも使う傾向がある様で。今の俺みたいに、一本の釘バットでどうにかしようとしてる奴相手に銃を向けてくるのは、ハッキリ言って向こうのズルだ。だからといって、ズルに対してまたズルを重ねて勝つというのは、気持ち良くない。勝つなら、釘バット一本で、やれる事をやるだけやって勝つ。それが勝ち負けってもんじゃないか?

 ・・・とか綺麗事を言いつつ、後ろの方では銃を構えているであろう旭が居るのだが。これは旭がやりたい事をやっているだけであって。ズルとは言うまいな?・・・都合がよすぎるか。

「・・・とにかく、その木っ端の動向が分かり次第・・・お前らに連絡する。」

 と、恵美須さんが言った。

「動向を探りたいなら、喜連と瓜破の2人も使えますね。」

「まぁ、アイツらにとってもありがたい話やろ。なんせ正式な仕事の話やからな。」

「・・・東と旭。お前ら2人が勝手に行動を起こさん限り・・・・・・なんでもええよ。・・・シュコー・・・」

 お、”シュコー”音。真剣な話はここで終わり、って事か。わかりやすくて助かる。

「まぁ、喜連と瓜破の2人への話は頼んますわ、恵美須のおっさん。」

「・・・シュコー・・・・・・前から思とったけど、その”恵美須のおっさん”言うの・・・シュコー・・・やめられへんのか。」

「え?でも今までそう呼んどったやんか。」

「シュコー・・・今は今で立場ってもんがあるやろ・・・シュコー・・・お前は俺の部下や。せやろ?」

「ん~・・・まぁ、確かに。ほな、恵美須さんで。」

「・・・シュコー・・・・・・まぁ、ええやろ。」

 恵美須さんも気にする事には気にしてたのか、あの呼び方。

 まぁなんにせよ・・・今のところは、恵美須さんと萩之組、それから手駒になったばっかりの喜連瓜破コンビの報告を待つしかない・・・か。

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