3-4:それでもダメなら馬鹿になれ
「見苦しいで、殺人鬼くん。」
まだ言い続けるか、この馬鹿は。馬鹿は馬鹿なりの馬鹿みたいな証明しかできてないというのに。
「そもそも、お前らは誰に雇われて俺をマークしてるんだよ。」
「そこは君、企業秘密というかなんというか、そういうアレや。」
「そんなんもわからんの?」
クソ、馬鹿2人が俺を馬鹿にしやがった。まぁそりゃそうか。簡単には言わねぇよなぁ。
「君にマスターを言ってしもたら、マスターの命が危ないからな。」
「・・・なんだ、そのマスターって呼び方は。」
「そりゃ君、雇い主のこっちゃ。」
「雇い主雇い主ー言うよりかは、こっちの方がかっこええやろ?」
コイツらアレか。カタチから入る系の馬鹿か。恵美須さんも最近商売し始めたとか言ってたしなぁ。・・・よくよく考えたら、コイツらも俺たち同様、売り出し中の素人なんだよな。
・・・素人の相手なら、既に一度、経験済みだ。しかしまぁ、旭は素人というよりかは、こっちをナメてかかりすぎたから負けたワケだけども。・・・今回は、別かもしれないぞ、こりゃ。
「・・・そうかそうか、良くわかった。」
「お、やっと罪を認める気に・・・」
「君たちが、事件の真相に気づいてないことが、な。」
「・・・事件の・・・」
「真相・・・?」
お、食いついた。これだから馬鹿は。しかしここからは、この馬鹿2人と戦う事になる。俺一人だけで。つまりどうしなきゃいけないか、というと、同じ土俵に立つ限り、俺も馬鹿にならなきゃいけないのだ。・・・なってやろうじゃねぇか。馬鹿とやらに。
「実はな、俺たちも独自であの事件を追ってるんだ。」
「・・・はッ、殺人鬼が殺人鬼の事件を追う?アホな事言うな。」
「だが事実、そうなのだよ。お前・・・喜連の方だったっけか。」
「な、なんや。」
「お前、確か有力な”証言を手に入れた”とか何とか言ってたっけな。」
「せ、せや。あん時君に襲われた・・・」
「その証言に、”矛盾”している点があるんだよ。」
「む、矛盾・・・?」
そう。まぁ、その証言で俺を犯人にする事はそもそも決してできないワケなのだが、これだけは説明しておかないと。
「仮に、仮にだ。俺が殺人鬼だとしよう。俺が殺人鬼で、その証言をした奴を襲った・・・となれば、その証言者は本来、殺されてなければならない。なにせ、撃たれた上に顔も見ているのだから。」
「・・・確かに。」
「しかも、共犯者がいるのなら尚の事。しかしどうだ。その証言者はピンピンしてるだろ?」
「・・・少なくとも、俺が証言を聞きに行った時は、健康そのものやったなぁ。」
「だろ?これは決定的な矛盾だ。そう言わざるを得ない。」
「し、しかし・・・敢えて君が殺さなかったとしたら・・・」
「その可能性は、ゼロだ。」
「な、なんでそう言い切れるんや・・・?」
「殺人鬼本人にとって、お前らの様な探偵君は厄介その物でしかない。そうだろ?」
「ま、まぁ・・・」
照れてんじゃねーよ。しかしまぁ、この様子だともう一押しか。
「そんな探偵君に証言を垂れ流す様な奴を生かしては置けない。尚更、な。」
「・・・ぐむむ・・・・・・」
「でも歩くん、この人の言う通りやで。」
お、瓜破の方は落ちたか。厄介なのは、我を・・・馬鹿を貫き通す喜連の方だな。
「よう考えてみたら、そもそも今まで連続的に殺人事件を起こしてる人がここに来たら、やる事なんてひとつやんか。」
「や、やる事?何やそれ美生、言うてみ。」
「ウチらを、”殺せばええ”やん。」
「あ。」
「お。」
・・・しまった、馬鹿になりきってしまったからか、感心してしまった。瓜破の言う通りだ。仮に俺が殺人鬼なら、ここでこの二人を殺して、証拠らしいものを消してしまえば、それで事は終わりだ。
「ほ、ほな、この人は殺人鬼とちゃう・・・んか・・・?」
「・・・歩くん。この人らを信じよ。」
「・・・せ、せやかて・・・・・・」
「歩くん、いつも言うてるやんか。”探偵稼業は、人を信じる事から始まるんや”、って。」
「・・・・・・・・・美生が、そう言うんやったら。」
なんだ、俺が直接トドメを刺さずに、相方の言葉で落ちたか。いや、なんというか、ここに来た時くらいから薄々察してはいたんだが、コイツらデキてないか?あるいはもう結婚くらいまでいってるんじゃねぇか?・・・気になる。気にしてもしょーがないけど。
話が終わったので、旭を呼びに行った。その後、喜連と瓜破の二人と話す。
「まぁなんだ。殺人事件の件については、こっちでも調べてみるさ。」
「君、さっきまで疑われとったのに、もうこっちに協力する気になったんか?」
「協力も何も、最初から俺は疑われてるんだ。濡れ衣をどうにかしないといけないからな。」
「・・・その事やねんけどさぁ。」
戻ってきた旭が何やらボーッとなにかを考えながら言った。
「その、なんや、マスター?まぁ、雇い主って言うけどさ。ソイツ、
「マスター・・・マスターの事は、今回は何にも聞かされてへんよ。」
と、喜連が返した。それでいいのか?名私立名探偵よ。
「せやろなぁ、思てん。そもそもの話・・・”口を挟まずに”聞いてほしいんやけど。」
旭の強調に喜連と瓜破の2人が頷く。余程馬鹿を聞きたくないんだろう。
「ここら一帯の商売は、萩之組が仕切っとる。せやけど、組の方にはお前らみたいな私立探偵が仕事始めた、言うような話は一切入ってきてへんかったんや。そこで気になったんやけど・・・お前ら、いつから探偵始めてん。」
「え、えーっと・・・」
旭の問いかけに、喜連が目を泳がせながら顔をあげた。・・・いやいや、まさか。
「・・・・・・い、一か月前くらい・・・」
・・・”そんなまさか!”と思った事程、そのまさか通りになるこの現象に、なにかしら名前でもついてんのかね。ついてないなら俺が命名して、イグノーベル賞でも取れる様な論文でも書いてやろうか。
「まぁ、そこは大目に見たるけど。売り出したばっかりの探偵に、仕事やる奴なんて、
「・・・今回の事件は、俺らにとっても”初めての依頼”やったから・・・」
なんだコイツら、初めて尽くしじゃねぇか。よくそれで俺を疑えたな。・・・初めて尽くし云々で考えれば、アレだけ雑な証拠揃えたりするのも頷けるけど。
「・・・東、今回の事件のあらまし、大体わかったわ。」
「大体?どういう事だ。」
「要は早い話が、この2人は利用されとんねや。」
「お、俺たちが、利用されてる・・・?」
「あ、旭ちゃん、何言うてんのん・・・?」
「せやから言うてるやんけ。本来お前らみたいなズブの素人に、大事な大事な殺人鬼探しなんて任せるわけがないんや。そういう話は全部、本来は”新世界警察団”に流れるか、ウチらの様なヤクザ
な、なんだ、”新世界警察団”って。犯罪の坩堝のこの新世界にも警察が居んのか?だったらココに来た時からソイツらを頼りたかったんだけども?
「で、でも旭ちゃん、実際ウチらに依頼が・・・」
「せやから、それがおかしい言うとんねんやんけ。そのマスターって奴は、お前らがズブの素人である事に目をつけて、情報のかく乱をしよったワケや。ただ”私立探偵が捜査しとる”って言うてたら、新たに事件が起きん限り、新世界警察団もヤクザ者も手ぇ出されへん。その間に、証拠なりなんなり消していけば・・・」
「ま、待てや。そ、それやったら、殺人鬼の正体て・・・」
「お前らを雇ったマスター、その”張本人”や。」
・・・旭ってもしかして頭良い?それともミステリーがお好き?
「え・・・えらいこっちゃ・・・」
「ど、どないしよ、歩くん・・・」
「まぁ落ち着けや。こっちにも提案があるんじゃ。」
「あの、旭さん?」
「ん?なんや東。」
「なんかすっごい話勝手に進めちゃってるけど、大丈夫?コレ。」
「まぁ、後はなる様になるやろ。アタシええこと思いついてん。」
と言いながら旭がそれはそれはにんまりと笑顔を浮かべる。悪そうな笑顔を。
「喜連と瓜破やったっけ。」
「せ、せやけど、なんや。」
「そもそもアタシは、萩之組の目を逃れて商売を始めよったお前らに、ショバ代の請求に来たんや。」
「あ、旭ちゃん、う、ウチらな?これでも内装と外装とテナント料でカツカツでな・・・」
「せやろ?せやから、ちょっと”契約”して貰おやないか。」
「け、契約・・・?ヤクザとなんの契約を・・・」
「あぁ、言い忘れとったな。アタシはもう萩之組からは離れてんねん。せやけど、ここにおる相方の東と一緒に、傘下の組織、恵美須屋で働いとんねや。」
「え、恵美須屋・・・?」
「せや。それこそお前らより信頼できる万事屋や。そこでや。お前ら二人、”恵美須屋の傘下”としてやっていかへんか?」
あのー、旭さん。そんな話勝手にして大丈夫なんですかね?俺知らないぞ?恵美須さんに怒られても。
「・・・どういうこっちゃ。」
「お前らには今後、ウチら恵美須屋から仕事流したる。んで、仕事の報酬の何割かを上納する事で、ショバ
ははーん。旭もこれで元ヤクザ。考えることが違うね。今度はこっちがこの馬鹿2人を利用して、手駒にしつつ金を巻き上げようってか。恵美須屋から依頼を流してこの2人の名が上がれば、他の所から仕事だって舞い込む事になるしな。こっちはその報酬の何割かを貰ってガッポガッポか。
「・・・そんな契約、誰が・・・」
「今回の件でウチら2人に・・・特に、恵美須屋の看板背負とるビジターに迷惑かけた事は、わかってるよなぁ・・・?」
「・・・は、はい。」
最後は旭お得意の眉間シワ寄せ殺意マシマシどストレート一言でKOか。・・・味方にすると頼りがいあるなぁ。
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