2-4:いわゆる、”おとしまえ”って奴です
「で・・・シュコー・・・・・・お前はそんなにボロボロになりつつ・・・シュコー・・・ガルシアの馬鹿を引き摺ってここまで帰ってきた、と。」
「そういう、事です・・・」
まだ気絶してやがるガルシア+大量に抱えてた荷物を、俺は傷が疼くのを我慢して、引き摺って恵美須屋に帰ってきた。
「シュコー・・・初仕事でそんなんになる奴は・・・シュコー・・・お前が初めてや。」
「でしょうね。」
返す言葉も無い。そもそも、初仕事で確実に俺を狙って邪魔をする奴が現れるなんて、誰が想像できた?しかも、ソレが俺くらいの年の女の子だぞ。あんな子が、あれだけ動けるなんて最初は思ってもみなかった。
「で・・・シュコー・・・・・・お前はその銃もどきを見ても・・・シュコー・・・
恵美須さんが俺の目を見て訊ねてきた。俺は最初、本当に撃ったんだと思った。だが、ガルシアに駆け寄った途端、おかしいと思ったんだ。それで、その後のアイツの行動でそれがただの脅しの玩具だと確信できた。
「・・・怖くはなかったです。」
あの時の、すんでの所での考えが無かったら、俺は大慌てでアイツを取り押さえてただろう。
「・・・まぁ・・・・・・シュコー・・・お前は良うやった・・・」
「・・・うす!」
恵美須さんのその一言で、俺はやっと初仕事を終えたのだと、心から実感した。
「・・・ところで、お給料とかは?」
「・・・ここに住まわすんやから・・・シュコー・・・その生活費なりを渡す。」
「・・・うす。」
・・・どうやら、遊びに使えるようなお金は、しばらくは入ってこなさそうだ。
~一方、”萩之組 組長室”~
「・・・すんません。」
「何を謝る事があるんや?」
赤いジャージの女の子と、西成が話していた。
「・・・アタシ、負けてしもた。それも、外から来た
「それで?」
「・・・せやから、アタシ、萩之組の面汚しになってしもた・・・ほんま・・・ほんますんません・・・」
立ちつくし、涙を流しながら拳を握り締める。
「・・・それで?」
「・・・これ以上、謝りようもありません・・・」
「誰も謝れなんて言うてへんけどなぁ。」
「・・・せやけど・・・」
「そもそも、私に謝って、
「それは・・・ただアタシのドジを・・・」
「それはただのアンタの自己満足やろ?」
「・・・・・・はい・・・」
「まぁ、それでも謝る言うんやったら、好きなだけ、満足するまで謝り。」
「・・・すんません・・・・・・すんません・・・」
「でもな、アンタが満足しても仕方ないんよ。」
「・・・すん、ません・・・」
「私、な~んにも満足せぇへん。」
「・・・どないしたら・・・・・・?」
「はぁ・・・ええか、よう聴きや。アンタもウチの商売に手ぇ出し始めてもう5年や。そんな人間が、裏の社会の流儀を知らんとは言わさへんで。」
「・・・仰る通り、です。」
「せやなぁ・・・これで失敗したんが、上新庄やったら、小指のひとつぐらいで堪忍してたやろなぁ・・・」
「・・・・・・ほな・・・」
「せやけどな。私はアンタを買うてるんやで。」
「・・・・・・ありがとう、ございます・・・」
「せやから、大目に見たる。・・・”破門”、って形でな。」
「・・・破、門・・・ですか・・・?」
「せや。アンタ、ウチから出て行き。」
「・・・そんな・・・そんな殺生な・・・」
「この世には、いつまでも子の世話をする親はどこにもおらんのや。それはアンタが一番良うわかってるなぁ?」
「・・・・・・でも、アタシにとって、組長は・・・」
「二回も言わさんとってや?」
「・・・・・・・・・わか、り、まし、た・・・」
女の子が暗い声でそう言って、部屋から去ろうとする。その背中に向かって、西成は言った。
「アンタはアンタの好きなようにやり。」
「・・・」
女の子は黙って、部屋を後にした。
「・・・良いんですか、組長。」
それをそばで聴いていた井高野が言う。
「・・・あの子も、親元を離れる時期や。」
「せやけど、あない突き放すみたいに・・・」
「・・・私、不器用なんよ。」
「・・・そうですか。」
「・・・ところで・・・・・・」
井高野の横に立っていた上新庄も訊ねた。
「お、俺やったら、小指て・・・」
「嫌やわぁ、冗談やで、冗談。」
「・・・そうですか。」
渋々そう言った上新庄の手は、まだ小刻みに震えていた。
~後日 恵美須屋~
「あ痛たたたたた・・・」
未だに俺の体の傷は治らない。そりゃそうだ、団地の3階からどったんばったんと色んな物にぶつかって落ちたんだから。
「シュコー・・・お前、その様子やと・・・シュコー・・・あばら、ヒビいっとんな。」
「やっぱ・・・そうっすか・・・痛ててて・・・呼吸する度に・・・痛てぇ・・・」
「・・・まぁ、今やったら落ち着いて話せるやろ。・・・シュコー・・・お前が気になってるやろう事を・・・シュコー・・・話したろやないか。」
気になってる事、とな。正直、昨日は山ほどあったんだが、今になると綺麗さっぱり忘れてしまっている。というか、昨日の一連の出来事で精神的に慣れてしまった、というか。
「お前みたいな外の者・・・シュコー・・・・・・新世界に住む人間は、それを”ビジター”と呼んどる。」
ビジター。確か、俺の右手のこれがその証なんだったっけか。
「でも・・・その様子だと、俺だけじゃないみたいですね、ビジター。」
「せや・・・シュコー・・・」
その会話の合間合間に挟まるダー〇ベイ〇゛ーみたいなのどうにかならないのかな、恵美須さん。
「この新世界には・・・ようさん外国から来た奴がおる・・・・・・それこそ、企業や組織の奴らはな。」
お、〇゛ース〇゛イダーみたいなのなんかマシになった。もしかして、いつもの”シュコー”はわざとか?
「お前の様な者は知らんやろうけど・・・裏の世界で生きる者ら・・・・・・そいつらは皆、この新世界の存在を知っとる。」
「皆って・・・そんなに知名度高いんすか、この街。」
「人身売買・・・麻薬密売・・・裏の金、殺し、果ては強姦・・・・・・この新世界には、その全てが集まっとる。」
「つまり・・・表でできない事をここで・・・痛てて・・・」
「そういうこっちゃ。・・・お前、中々察しがええやんけ。」
「まぁ、昨日からこんな目に合ってるんで・・・」
「それもそうか・・・それでや、東。・・・・・・お前、西成に珍しいて言われたんやろ。」
「あぁ・・・そういえば。なんで知ってるんです?」
「そら、ウチは萩之組の傘下・・・・・・言うたかて、傾いたヤクザ組織の傘下なんぞ・・・指で数えるくらいのもんや・・・・・・」
「・・・つまり?」
「昨日、お前がマンホールの穴からここへ来たのは・・・・・・西成から聞いとる。」
なるほど。西成さんが俺の為に色々と手配してくれてたのは、恵美須さんを信用しての事だったのか。
「たまぁぁに
「それは、昨日西成さんも言ってましたね。」
「言うたら・・・新世界は文字通り、表の世界とは別の・・・地下に広がった、新しい世界や・・・簡単に、行き来はできるけどな。」
「・・・あの。だったら、最初から俺を帰してくれれば・・・」
「アホ。お前みたいなガキ・・・そのまんま表に帰したらどないなる・・・」
どない・・・どういう風に・・・まぁ、地下にはこんな世界があって!って、言いふらすだろうな。落ちたのが俺だったからまだ良かったものの、これが馬鹿田だったらと思うと・・・。
「・・・
「あぁ、攫われた子とかがああなる、とは・・・」
「普通はな・・・お前みたいなイレギュラーも、記憶を操作されて・・・ああなるんや。」
「記憶を・・・操作?」
「せや。・・・裏の世界の技術を使えば・・・簡単な話や。」
「って事は・・・俺が見たあの子たちは・・・」
「元の世界の事も、皆忘れとる・・・」
なるほどな。通りで鞭で叩かれても棒で殴られても反応しないし、反抗できないワケだ。よくできたシステムであり・・・よくできた闇だな。
「苦力を買おうと・・・思わんこっちゃな。」
「やっぱり、売り買いされてるんですか。」
「若いのは高値が付く。特に、お前みたいな・・・健康体の男子はな。」
「ひえー・・・」
「・・・とにかく、今はウチで働け・・・・・・ウチでもお前の看板提げたる。・・・”恵美須屋ビジター”言うてな・・・」
「・・・あ、ありがとうごz・・・痛たたたた・・・・・・」
「今はまぁ・・・・・・ジッと治るん待っとけ・・・・・・シュコー・・・」
あ、また”シュコー”っていい始めた。遊んでるよな、アレ・・・痛てててて・・・
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