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「上に立つ者がこの程度か。この国の騎士団とやらも脅威ではないな。命令一つで俺が攻落して見せる事すら容易いが――ペペ様に感謝する事だ」


 鞘に納められた刀に代わるような鋭い視線で見下ろすルシフェルは、抑揚の無い口調で言葉を並べた。ただ事実を述べているとでも言うように淡々と。

 するとミシェルはそんな彼への返事としてまず、地面へ拳を叩き付けた。土とぶつかり合うもその重い音はすぐさま地へと落ち、その代わりと言うように鎧の触れ合う音か辺りへと響いた。


「うっさいわね」


 その拳同様に力の籠った声と共にミシェルは緩慢と立ち上がった。


「アタシは騎士団団長、ミシェル・V・スウィングラー。この剣は――この名にも、この地位にも決して恥じない」


 先程よりも冷静だが、先程よりも燃え盛る炎を内に宿した彼女は切先をルシフェルへと向けた。


「それを証明するのはお前の剣だけだ」


 そんなミシェルに答えるようにルシフェルもまた鐺を彼女へと向けた。

 そして二人は同時に地を一蹴しては刀と剣を構え――痛烈な一撃がぶつかり合う。ここまでのどの剣より力強い一振り。

 だが鍔迫り合いを長くは続けず、ミシェルは先手を取り攻めへと転じる。より鋭く、より速く、より強く。表情こそ変化は無かったが、一撃を受け止める度に刀を通じそれを誰よりも感じていたのは他の誰もないルシフェルだった。

 そんなルシフェルは連撃に対して防戦一方で、そのさなか僅かに遅れた一文字を大きく退き躱した。

 だがそんな彼へミシェルは持ち替えた剣を矢の如く放つ。後方へ跳んだ彼を追蹤する剣はその着地とほぼ同時にその切先を突き刺さんと襲い掛かるが、正面から飛んでくるそれをルシフェルは容易に上空へと弾いた。

 しかしその剣の向こう側にミシェルの姿はない。その事に気が付くとすぐさま警戒しつつも手早く周囲を見遣るが、やはりその姿はどこにもない。

 するとルシフェルは何かを感じ取ったように上空を見上げた。

 そんな彼の視線先では弾かれた剣を空中で拾い、落雷のように一撃を振り下ろすミシェルの姿が。その斬撃をルシフェルは間一髪、滑り込ませた刀で受け止めた。微かに震えながらも動きのない刀と剣は無言の中、力の攻防を繰り広げ続ける。

 数秒の迫り合いの後、最後はルシフェルが鐺を地面へと向けては刀を傾け剣を滑らせ受け流し、激突の激しい開戦とは打って変わり静かに終わりを迎えた。

 だがミシェルの手は緩む事なくそこから更に嵐のような連撃がルシフェルを襲う。

 それをやはり表情に雲一つ浮かばせず見事に鉄壁の防御を見せるルシフェルだったが、初めに比べ足は忙しなく動き刀で受け止めるのでは間に合わず回避する回数も増えていた。

 そんな二人の戦いを見つめる二人の王。


「さて――王として決断を下して貰おうか。それともこの国の全てを賭けて吾輩に挑むか? それも面白い」


 肘掛に頬杖を突きながら尖鋭な横目をクレフトへ向けるペペ。


「まだ勝負は付いてないはずだが?」


 一方でクレフトは視線を真っすぐ二人の戦いへ向けたまま。


「結果は見えている。確かに見込みはあるが、魔力すら引き出せん。それどころか抜かせる事も叶わん。あのような小娘が束ねる刃などたかが知れてる」


 するとクレフトは嘲笑的なペペの隣で静かに笑みを浮かべた。


「確かにミシェルには少々波がある。その実力も団長として申し分ないとは言え、その席に腰掛けるには時期尚早なのは否定出来ん。今を見れば相応しい者はおる」

「まさか国王が現状の騎士団団長に不満を抱いているとはな」


 表情では面白いと微かに口元を緩ませていたが、その胸内では一驚に喫するぺぺ。


『まだ若いけどあんなに必死に頑張っていい騎士団長っぽいのに、国王にまでそんな風に思われてるなんてなんか可哀想だな』


 一人そんな事を思いながらも一切それを表に出さず、ぺぺは横目でこの国の為に剣を振るうミシェルを見遣る。

 だがクラフトは小さく首を横に振りその言葉を否定した。


「不満はない。事実を述べただけだ。それでも彼女を騎士団団長として任命した」

「もう一戦でもしたいのか? まだ本気じゃないとでも?」


 その問い掛けに緩慢と首を振ったクレフトは視線をペペへ。


「そうではない。それでも団長という椅子に座らせたのは――未来だ。あの子には素質がある。この国の歴史に名を刻む程の騎士になる素質がな」


 そして一足先に顔を戻すとそっと顎をしゃくった。

 それに遅れて視線を中央へ戻したペペは思わず目を瞠る。その動揺全てを何とか内心だけで留めはしたが、心の中では完全に声を上げていた。


『えっ! ウソッ!』


 ペペの視界に飛び込んできたのは、丁度ルシフェルの手から弾かれ宙を舞う鞘付の刀とその向かいで剣を構えるミシェルの姿だった。

 それは相手の武器を弾き飛ばした絶好の好機。透かさずミシェルは構えた剣を射られた矢の如く突き出した。そこに迷いは無く――それは戦場で目の前の敵を倒す為の一突き。

 直後、地面へと吐き捨てられた液体は燃える様に緋く、また一滴と晴天を背に雨の様に雫が滴る。

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