10
口を開けるように開いた大門からは三人の騎士が出てきた。一歩後ろを歩く騎士は兜を被り全く人物像が分からなかったが、真ん中の騎士は兜をしておらず顔が見える。
それはペペもよく知る顔。ミシェル・V・スウィングラーだった。
「アンタ達。このサードン王国に何の用?」
ペペらとは少し距離を空けた場所で立ち止まったミシェルを含む三人サードン騎士は、剣にこそ手は伸ばしていなかったものの警戒の視線を向けていた。
「クレフト・サードンに用がある」
ミシェルは国王の名前に僅かだが眉を顰めた。
「国王様に? 得体の知れない奴を会わせるわけにはいかないわ。一体何者?」
「我輩は魔王ヌバラディール・ペペ」
だが魔王という言葉に眉間の皺は更に深くなった。
「魔王……。アンタが魔物をこの世に放った張本人。尚更そんな奴を国王様に会わせるわけないでしょ」
「貴様の意見は関係ない」
「そうかしら? サードン王国騎士団としてアンタの入国は認めない。もし力ずくで国王様に会おうとするなら……」
するとミシェルは腰に差していた剣へ手を伸ばした。
だが抜きはせず警告するように柄を握っただけ。
「国の脅威として対処する」
「ほぅ。面白い」
一方でペペはそんなミシェルに余裕の笑みを浮かべて見せた。
「ならばここで貴様の実力を見定めるとしよう――ルシフェル」
「はい」
名を呼ばれたルシフェルはペペの前へと出た。
「加減はしてやれ。それと間違っても殺すなよ」
「承知しました」
返事をしながらルシフェルは刀を抜くと手の中でくるりと持ち替え刃と峰を逆にした。
「三人同時でも構わん」
「あなた達は下がってて」
その言葉がプライドに触れたのかミシェルは後ろのサードン騎士にそう伝え剣を抜いた。言われた通り二人の騎士は少し後ろへ下がり、睨み合うルシフェルとミシェル。既にその間には一触即発の雰囲気が漂う。
そして根拠は無いが開戦の空気をその場全員が感じ取ったその時だった――無数の足音がペペよりも後方から近づいて来るのが聞こえた。だがその足音は人の類ではなく馬。そんな近づいてくる音にペペを含む全員の注目が向けられる。
視線の先から走ってきた大量の馬はペペらの少し前で止まった。その頃にはペペとアルバニアは完全に振り返っており、戦いを一時中断したルシフェルとミシェル・サードン騎士二名もペペの隣に並んだ。
すると先頭の馬に乗っていた騎士が兜を脱ぎ自信に満ち溢れた顔を露わにした。
「ぼぉ~くは、クラガン帝国騎士団、だぁい十七部隊分隊長、ナルキス・シスラード。小隊長の命によりお届け物を配達に参りました」
そう言ってナルキスは上から丁寧だが誠意の感じられない一礼をして見せた。
「クラガン帝国から受け取る物なんてないわ」
だが払い除けるようにミシェルがそう言うと、ナルキスは彼女の顔に微かだが目を大きくさせた。
「おや? 知った顔があると思えば。サードン王国、騎士団長、ミシェル・スウィングラーではありませんか」
「さっさと兵を連れて引きなさい。さもなくばサードン王国騎士団が相手をすることになるわ」
「それも面白いですが、これを見てもまだ意見は変わりませんか?」
ナルキスはそう言いながら手で部下にその届け物を持ってくるように指示を出した。
その指示に従い後方から前へ出てきた騎士は手に鎖を握っており、その先には五人の人間が繋がれていた。五人は一列に並べられされるとその場に膝を着かされる。
「彼らはサードン王国の同盟国ミラドへの援軍として派遣されたサードン騎士団の騎士です。つまりあなたの部下。ミラドは既にぼぉく達、クラガン帝国の手に落ちました。最後まで抵抗を止めなかったミラド騎士団とサードン騎士団は壊滅」
哀れだと言いたげな表情をナルキスは浮かべた。
「ですがボルボ隊長の慈悲により彼ら五名だけ生かされました。そこで! この五名の騎士を生きたままお返しする代わりに、サードン国王には敗北宣言をしクラガン帝国に忠誠を誓っていただきたい! というのがボルボ隊長の慈悲深き条件です」
「この外道がっ!」
「ヒドイ言われ様ですねぇ。ですが騎士団など所詮は国の駒に過ぎません。そんなたかが五個の駒如きの為に国を差し出すバカはいないと思うんですがね。まぁどの道、死ぬ運命だった駒すらも利用されるとはさすがボルボ隊長」
うんうん、とそう言いながら何度も頷くナルキスにミシェルは依然と軽蔑と苛立ちの混じり合った眼光を向けていた。
「さぁどうしますか? 国王に判断を仰ぐかこのまま見捨てるか。騎士団長ミシェル・スウィングラー」
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