5
左手に刀を握ったルシフェル。その前には、王座に深く腰掛けるクラガンと壁のように列を成し並ぶ鎧の騎士の姿。だがそこには飛行型や犬型など色々な魔物の姿も混じっていた。
「あ? 何だてめぇは?」
「コイツがこの星の勇者か」
クラガンの敵意丸出しの問いかけを無視しルシフェルは一人呟く。
「フッ。まぁいい。お前のようなバカの為にわざわざ魔術の類で飛んでこれるようにしてんだ。だが俺様は今日、気分がいい。お前が……」
「俺はお前とお喋りをしに来たわけじゃない」
ルシフェルはクラガンの言葉を遮ると刀を抜いた。その行動に手前の兵士は身構える。だがルシフェルは足元に横線を引くと刀を鞘に戻した。
「だが戦いに来たわけでもない。この線を越えなければ手出しはしない」
「なら何しにここに来たんだ?」
「この世界の勇者がどんなものか見ておこうと思っただけだが――大したことはなさそうだな」
「ほぅ。なら試してみるか?」
口には笑みを浮かべていたがクラガンだったが、その目は殺意に満ちたものだった。
だがルシフェルもそれに負けず劣らずの鋭い眼光を向けいる。
「――それは俺の役目じゃない。お前を殺るのはペペ様だ。お前如きでは勝つことは出来んだろうが、精々退屈がないよう精々励め」
「おい貴様!」
すると並んだ騎士の一人が声を上げながら前へと足を踏み出し始める。頭から足の先まで鎧に包まれたその騎士は床に付けられた一本線を挟みルシフェルと向かい合った。
「先程から聞いていればクラガン様に対してなんだその口の利き方は!」
騎士は怒りを露わにしながら更にもう一歩踏み出す。
「何者だか知らんがこの状況で調子に――」
だが彼が一線を越えたその瞬間。常人の目では到底捉えることの出来ない速度で刀を抜いたルシフェルが一閃。ほぼ同時に騎士の首が宙を舞う。それにこの場全員の視線が集まる頃には既に抜かれた刀は鞘へと納められていた。
そして血を噴水のように吹き出し倒れる体を他所に兜を被ったままの頭はクルクルと回転しながら後方の騎士らの方へ。放物線を描き飛んできたそれを反射的に両手で受け取った騎士の一人は、自分の両手に納まるそれが仲間の頭だと分かると「ひっ!」と小さく声を上げた。同時に腰を抜かす様に数歩退き、持っていた頭部を再び宙へと放り投げる。ラリーでもするかのように頭部は自分の体の傍へと鉄の重く鈍い音を立てて落ちた。
「それとペペ様を裏切ったクソ共は次会うまでに死んでおけ。じゃなきゃ殺す。それか今この線を越えてこい。すぐ報いを受けさせてやる」
「言いたいことはそれだけか?」
依然と突き刺すような眼光を向けたクラガンは表情とは裏腹に穏やかな口調で尋ねた。
「これからペペ様の征服が始まる。裏切者と歯向かう者に容赦はしない。それ以外はただ平伏せ。それだけだ」
「宣戦布告ってやつか。おもしれぇ。その征服やらがどれほどのものか楽しみだな。だがその前に……」
言葉を止めたクラガンは嫌な笑みを浮かべてみせた。
「殺せ」
クラガンのその一言に騎士は一斉に剣を抜く。そして最初の一人を皮切りに魔物を含めた騎士らが一斉にルシフェルへと走り出した。
すぐに刀は抜かず、慌てることも無く、ただ向かってくる騎士と魔物へ目を向けるルシフェル。
だが先頭の騎士が一線を越えた瞬間、刀を抜き素振りをするような一刀でその騎士を斬り捨てた。
それからほんの十数秒後。クラガンの前に広がった光景は、血塗れの床とその中に立つルシフェル。そんな彼の周りに転がるのは騎士と魔物の屍。だがその屍は一体残らず線の内側、ルシフェル側に転がっていた。そして華麗に血振りをした刀を鞘に納めたルシフェルは何も言わず青黒い魔力に包まれその場から消え去った。
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