第9話 二年目の夏

「そろそろ花火が打ちあがるな」


 流石にエルピスが人の多さに疲れてきたので、二人は夜は神殿がある森に帰ってきた。花火を見るぐらいならば森でもいいし、何よりエルピスが楽しく思うのが大事だと思っているからだ。何処からか花火が打ちあがる音が響き渡る。人間の姿のままで見ているエルピスをオスカーは横目に見ていた。


 花火の色に染まるエルピスは儚くて、触ると消えてしまいそうな美しさがあった。きっと自分と関わった時間はエルピスにとっては刹那の時間であり、すぐに終わりを告げることだろう。今日見ている花火のように一度見たら忘れられるかもしれない。その事実は変えることはできない。


 自分が人間じゃなかったらと思うことがある。人間で無ければ、この先何百年と一緒にいることが出来る。エルピスの寂しさを紛らわすことが少しでも出来たかもしれない。たらればな話をしても意味はない。エルピスは今日の些細なことなんか忘れてしまう可能性がある。それは嫌だった。


「エルピス」


「なんだオスカーよ」


 花火を見ていたエルピスの目がオスカーに向く。初めて見た時からセレストブルーに囚われている。これからずっと自分は青に支配されるのだろう。それでもよかった。エルピスの為ならば人生を捨てることすらいいと思うから。それが友情からなのかはオスカーにも分からない。


「おいらのこと忘れないでくれよ」


「当たり前だろう。何を今更言うのだ」


 呪いに近いまじないをエルピスに投げかけた。エルピスは当たり前のように受け取る。それで構わない。今はただ傍にいられる時間を大切にしたかった。繋がれた手を離さないようにオスカーが握ると、エルピスも握り返す。あれだけ騒がしかった花火は終わる。二人は別れるまで、星が降る空を眺め続けていた。

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