第17話 谷彦がふゆきに声をかける

 シャープペンシルの芯を補充していると、あるシーンが目に飛び込んできた。


「ふゆきさん、僕と一緒にランチに行こう」


 ふゆきに声をかけていたのは、近藤谷彦だった。ひとみと交際しているにもかかわらず、他の女にも手を出そうとしている。女癖の悪さについては、改善されることはなさそうだ。


「大変申し訳ありませんが、あなたの希望に沿うことはできません。私には大切にし

たい方がいます」


 谷彦はすぐに引き下がることはしなかった。


「一度だけでいいから・・・・・・」


 二股をかけようとする男に、女たちは冷たい視線を向けている。既に二人以上の女と交際しているのに、新しい相手を見つけようとしている可能性すらある。


「ひとみさんと交際されているんでしょう。そちらとご飯を食べればいいじゃないですか」


「ひとみよりも、君と一緒にいたい」


 ふゆきは凍り付くような瞳で、谷彦と接している。普段は温厚なだけに、ギャップは否めなかった。


「不倫の巻き添えにしたいということですか。私にとっては、迷惑以外の何物でもありませんね」


「ひとみとはすぐに別れるから・・・・・・」


 谷彦の自分勝手すぎる発言を聞き、ふゆきは眉間に皺を寄せていた。


「女をとっかえひっかえして、おもちゃのように扱うつもりですか。あなたのような男は、絶対に願い下げです」


 ふゆきは最終通告を行った。路上で声をかけてきたときとは、完全に別人に感じられた。


「あまりにしつこい場合は、ストーカーとして警察に通報します」


 谷彦の表情が曇った。


「警察なんて大袈裟な・・・・・・」


 ふゆきのいるところに、複数の女が近づいてくる。


「ふゆきさん、こいつは究極のサイコパスだよ。絶対に交際しないほうがいい。話をするのもやめたほうがいいくらい」


「そうだよ。女の心をおもちゃにする異常者。こいつのせいで、どれだけの女が不幸になったか」


 ふゆきは話に対して、しっかりと頷いていた。


「特別な用事がない限りは、声をかけないでください。お守りいただけない場合については、警察への通報を視野に入れますから」


 谷彦のすぐ近くに、ひとみがやってきた。


「谷彦君、ご飯を食べに・・・・・・」


 谷彦は思い通りにならなかったからか、不機嫌モード全開だった。


「お前のような奴とは、一緒にご飯を食べたくない。邪魔だからあっちにいけ」


 現在進行形の彼女に、このような仕打ちを取る。自分は最低男なので、交際してはいけないといっているようなものだ。


 ひとみは気の強い女だ。谷彦に強烈にかみつく。


「彼女に向かって、そんないい方はないでしょう」


「お前のようなブスと交際してやったんだ。こっちとしては、感謝してほしいくらいだ」


 谷彦の発言に対して、クラスの女はドン引きしていた。本心で思っていたとしても、絶対にいってはいけない発言だ。


「ふ・・・・・・」


 ふゆきはすかさすスマホを取り出し、ボタンを三回押していた。指の動きからして、110番であると思われる。


「警察にお世話になりますか。それとも・・・・・・」


 ふゆきが本気であることを知り、谷彦は逃げるようにいなくなった。

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