第13話
右手を差し出すローガンさん。再び、微笑を浮かべている。
大きな背中の向こう側にいるカルロスさんは、ただでさえ硬い顔を引き攣らせて、じっとコチラを見守っている。
「俺は、十三歳の時に妹を失った。うちに強盗が入り、それに出くわしたから、胸をドカッと刺されて死んだ」
微笑んではいるが、少しニヒルになっている。
「それから、俺は妹がいない生活を過ごす中でずっと物足りなさ、切なさを感じていた。俺は、妹を探し始めたんだ」
ローガンさんは、妹さんを思い出したのか、少し目を赤くしだした。
「妹は、優しくて、お人好しで、人に嫌われるのが怖くて、傷つけることが大嫌いだった……」
私は何も言えなくなった。
「ファニーは、妹とかなり似ている。言い訳なんてことは大嫌いだったけど、それぐらいは許容範囲だ。俺は、妹想いの兄だ。どうだ、俺と……」
「ダメです」
――あーあ、言っちゃった。
再びローガンさんの顔つきが変わるのが見えた。
「ものすごく可哀そうだと思います。本当にご気の毒ですが……私は、彼女として扱ってほしいんです。妹として扱ってほしくない。もっと大切にしてほしいんです……
「なにとぞ、な……?」
ハァ、っという溜息が聞こえた気がしたと思えば、ローガンさんはハハ、ハハハハハと笑い出した。
「君がファニーの彼氏か」
「そうだ。カルロス・アルバレスだ」
「お前に、妹は渡さない」
ローガンさんは槍をぶん回し、カルロスさんに殴りかかった。
「うおっ」
カルロスさんは慌てて槍を避ける。
「っらっ!」
しかし、ローガンさんの槍捌きはものすごく上手で、バランスを崩しているカルロスさんの、木の幹のような足をブアンと薙ぎ払った。
「ぐあっ!」
カルロスさんは倒れ、慌ててローガンさんの腹を殴るが、それよりも槍の方が速かった。
肘の辺りからプシュッと血が噴く。
カルロスさんは腹ばいになって逃げだそうとする。顔は至って、冷静である。
「もう止めてくださいローガンさん!」
「あぁ?」
「お兄ちゃんが妹にこんな光景見せて良いんですか?」
ピクッと両肩が一瞬上がり、怯えたような表情でコチラを振り返る。
その時、高級感のある青いマントが真っ二つに割けた。
「なっ……?」
体勢を立て直し、剣を抜いたカルロスさんが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「サンキュ、ファニー」
カルロスさんは剣で空中を切り裂きながら、ズンズンとローガンさんに近づいていく。ローガンさんは慌てて槍を構えるが、隙をついてカルロスさんはアキレス腱を猛打した。
「クッ」
相手が顔をしかめた瞬間、カルロスさんは、手に持つ長槍を大剣で叩き落とした。そして、それを槍投げの選手のようなしなやかな動きで、湖の中ほどまで投げ込んだ。
「な、クソッ」
真っ先に槍を取りに行こうと背中を向けた瞬間を、グロリア王国最高の剣士が見逃すはずがない。
真っ二つにされた青マントの隙間を、二段突きした。
「っだぁっ!」
苦悶の声を上げる。それでも、あまり深くは刺さらなかったようで、ローガンさんは懸命に槍へ向けて湖の中へ走っていく。
その間に、私はカルロスさんに回復魔法をかけた。
みるみる、槍がかすった傷口が塞がっていく。
「もう、良いだろう。あいつは。今のうちに退いた方が賢明な判断だと思う」
「そうですね……」
湖中で、グショグショになりながら私の名前を呼ぶローガンさんが、何だか不憫になってきた。
私たちは、水を求めているのかだんだんと人が増えている湖を避け、城の前へとやって来た。
――と、何やら大暴れしている輩が二人いた。
「キャッホー!」
「これ以上暴れるな。死傷者を増やすのは良くないだろう」
「イゴール、あんた、平和な世界を作るにはそれを妨げる人間を排除しなきゃダメでしょう?」
「そんなこと言ってもな……」
「って言って、今大虐殺を楽しんでいるじゃない。ヒャハハハハ」
二人の男女が、それぞれ氷の剣と炎の剣を持っている。全くタイプの異なる二つの剣が、様々な人の出血を誘っている。
「……これは、大丈夫なんですか?」
しかも、よく見れば、派手なピンク色の髪をした小太り女の方は、始まってすぐに私が襲われ、ローガンさんが倒したはずの女ではないか。
「マズいな。見ろよ、城の前の石碑には死亡者――といったら失礼か、HPがゼロになった人の名前が刻まれている」
石碑と言っても、手前には土を軽く盛ったものがあるだけのそれには、変態ジジイの名前も入っているのかと思うと少しばかり嬉しくなった。
「少しだけ、始末しておいてやろうか」
「そうですね。それが良いと思います」
あのモッコモコのコートは少なからず見覚えがあった。
――いわゆる中二病?
と思っていた自称『平和の戦士』に違いない。
「あれって、イゴール・オムトロズキーって奴ですか」
「オストロフスキーだったよな?」
カルロスさんは弓を、周辺に悟られないように城の影から引いた。
「
次々と蛇が、シュシュシュシュシュっと勇ましい声を上げながらを出陣していく。さらに、それをもう一、さらに二発。
死角からいきなり現れた蛇たちに彼らは驚き、身体という身体をめちゃめちゃに噛まれてしまっていた。
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