第15話 デマ
俺の目的は、この場所で大騒ぎすること。そうすれば看守たちが混乱し、その間にシーラが地上までの道を切り開く手はずになっている。
計画通り、周囲がざわめき始めていた。俺がいる場所は岩に囲まれている場所だが、それでも看守たちの混乱が伝わってきた。
この調子で暴れていれば、地上への道が開通するのは時間の問題だろう。
その間、殺されないようにしなければ。
「どんどん行くよ」看守の混乱など、怪物くんにとってはどうでも良いことだ。「さっさとキミを食べてみたいからね」
気の利いた返しをしようと思ったが、なにも思いつかなかった。仕方がないので大人しく構えて攻撃を待つ。
怪物くんが地面から大岩を引き抜いた。そんな物を持ち上げたら、次にやることは1つしかない。
俺に向かって巨大な岩が飛んでくる。風圧だけで体制を崩してしまうような、超高速の投擲。
なんとか岩を回避する。岩は俺の背後の壁をぶっ壊して轟音を鳴り響かせた。一応この怪物くん……大きな音が鳴るような戦闘をしてくれているのだろうか。それとも、この大味な戦い方が彼の戦い方なのだろうか。
迷っている暇はない。今度は怪物くんが俺に向けて一直線に飛んでくる。
しかし拳が大振りだ。威力は砕け散った地面を見ればわかるが、そんな大振りでは当たりっこない。
手加減でもしてくれているのかと思ったら、
「すごいね、キミ」なんか褒められた。「極稀に、生きてる人がキミみたいに落ちてくることがあるけれど……大抵は僕にビビって腰を抜かすよ」
「そうなのか?」
「うん。だって……僕に殴られたら死んじゃうんだよ?」
だろうな。あんな大岩を投げ飛ばして、岩盤を砕くような超威力の攻撃だ。まともに喰らえば、軽く死んでしまうだろう。
多くの人間はその事実にビビって、まともに動けなくなるだろうな。
だけれど……
「俺だって怖いけどな……」本来なら腰を抜かしていてもおかしくない。「妹に会わないといけないからな。ビビってる暇は、ないんだよ」
「そっか」あまり興味はなさそうだった。「別にキミの目的なんて興味無いけれど……その妹さんってのは、強いの?」
「さぁな……10年前は、まだあいつは小さかったからな」少し年齢の離れた
才能は感じていた。少なくとも運動神経は良いはずだ。頭も良いし……俺よりは軽く強くなれるだろう。
「なるほど……その妹さんも食べてみたいな」
「安い挑発だな」明らかに俺の全力を引き出そうとしているセリフだ。「そんな挑発には、乗らねぇよ」
「残念」
怪物くんはこの地下にとどまろうとしているのだ。そして俺の妹は地上にいる。なら、妹を食べたくても食べられない。だからこの挑発には乗る必要なし。
「思ったよりも理性的な人間みたいだね」そんなことはないけれど。「そんな人間が、どうしてここから脱獄しようなんて考えるのかな。どうせ不可能なのに」
「1人だけ脱獄に成功したって聞いたけど?」
「知ってるよ。その人は……僕をぶちのめした人だよ」
驚いてしまった。
目の前にいる怪物くんをぶちのめす? 俺が今現在、必死こいて逃げ回っている怪物くんを倒したのか?
この監獄から脱獄した人間なのだから強いのだろうとは思っていた。だけれど……まさかそこまでとは思っていなかった。
やはり……一度会ってみたいものだな。だけれど残念ながら……
「そのお強い人も、地上で殺されたって聞くけどな」
「嘘だね」確信を持った口調だった。「あの人が殺されるなんてありえないよ。間違いなく、デマだよ」
「へぇ……じゃあ、その話が真実かどうか確かめに――」
「だからって地上には行かないけれどね」それは残念である。「ともあれ……だんだんと騒ぎが大きくなってきたね。まだ僕は暴れる必要がある?」
「ああ」まだ作戦の遂行には時間が足りないだろう。「もう少し、付き合ってもらうぜ」
世間話をして時間を稼ぐのも良いけれど、それだと今度はシーラのほうが危険になってしまう。できる限りこちらに注意を引き付けなければならない。
とはいえ、かなりの時間戦っているし、そろそろ地上への道が開通するだろう。
あと少しの辛抱だ。その間に殺されないように気合を入れよう。
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