青春の一ページ

短夜

ヒーロー

ヒーロー。

今、私は焦がれている。

恋焦がれている。

アリーナの真ん中、必死に闘う彼に。

私は観衆、願うことしかできない。

だから、

お願い。

どうか、

必ず勝って。

私の、私だけの

「ヒーロー!」


考えるな、動け。

考えたら遅れる。

間に合わない。

——っ。

ボールがラケットを掠る。

「「ナイスボール!」」

ダメだ。

振られてばっかだ。

こんなんじゃ勝てない。

相手が構える。

右か、左か、どっちだ。どっちに来る?

あぁ、ダメだ。

考えたってどうにもならないだろ。

次々と取られていく。

このままじゃラブゲームだ。

焦りと緊張、ただその二つが意識を呑む。

ピンポンの軽い響き、床を叩く足の音、観客の拍手、全てが遠く聞こえる。集中とは違う音の遠のき。それが一層、焦燥感を掻き立てる。

もうダ——

「ヒーロー!」

ハッとして顔をあげる。

視界の先、観客席の彼女の顔が目に止まる。ハッとした彼女の顔は紅い。それは遠くてもわかるくらいに。

馬鹿だなぁ。

でも、ヒーローか。

「あはは。」

負けてなんかいられない。

焦燥感なんてもうない。

ボールを上げる。

考えるな動け!

ボールは音を立て、台を飛び交う。

——ここだ!

そう思うことに理由なんてなかった。

ただの勘だ。

それでいい。

考えるな。

足を踏み込む。

痛いくらい強く。

空気を斬る音が強く響く。

「——ナイスボール!」

息は切れ、足が痛い。

汗が目に沁み、視界は滲む。

それでも、必死にピースを掲げる。

高らかに、彼女に向けて。

そうだ。

僕はヒーローだ。

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