第4話
十五歳になった頃、親父からおのの世話係を命じられた。
村長の息子はその歳にその役目に就く決まりがあり、自分の息子を作る以外に逃れる術はない。もちろん拒否権もない。確か俺には兄がいたそうだが、抗いに抗い続けた結果殺されたのだとか。いやいやまさかと思いたかったが、刃物を片手に構えた状態で命じられたんだ、頷く以外の返答はできなかった。
そうして地下の座敷牢に連れてこられ、おのに引き合わされたと。
「うちの倅が、今後はおの姫様の世話をしますので、何でも命じてやってください」
それだけ言って、親父はさっさと地上に戻る。
二人っきりになった地下は、少し肌寒かった。
「淋しくなりますね、彼はけっこう都合が良かったのに」
牢の柵にもたれながら、けだるそうにおのは言う。
「都合?」
「腹が減ったと言えばすぐにおにぎりを用意してくれましたし、女の注文にはきちんと対応してくれました。とても都合が良かったのに、多分君は彼ほど熱心には尽くしてくれないでしょうね」
「……疲れることは嫌いだ」
「やっぱり」
たまには不誠実な人もいいでしょうと、おのは俺に、敬語を使わないこととへりくだった態度を取らないことを許可し、俺は暇な時、あいつの昔話を聞いてやった。ほとんどは猥談だったが、一度、それなりに興味を持てる話をされたことがある。
「僕らの種は牛なのです」
きまぐれに牛の乳をやったから、そんな話をされたのかもしれない。
「牛の姿をした神が偶然水を飲みに来た池で、娘が行水をしていたのです。そこを牛は襲い、事が終わったその後で、そこら辺にあった石で牛は殴り殺されたそうですよ」
「神なんだろ? そんな簡単に死ぬものなのか?」
「そんなに力の強い神じゃなかったんじゃないですかね」
それにしては、その子孫、妙な生き方をしているけれども。
「娘はその死体をどうしたと思います?」
「……隠した?」
聞いたこともない話、娘が人に見つからないようどうにかしたんじゃないのか。
口にすれば、おのは静かに首を横に振り、それに合わせて黒髪も揺れる。
「そのままにしました」
「牛の死体があったら話題になりそうなもんじゃないか」
「なりませんでした」
「……今でも、そのままなのか?」
「骨になって、そのままです」
死んだ神を放置というのも、祟られやしないかと少し気味が悪くなる。かといって探して埋葬するほどの信心深さはない。
さてどうしたものかと考えていれば、おのがうっすら笑みを浮かべていることに気付く。
何だよと訊けば、どうですかと返された。
「気になりません?」
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