種子創世記

2121

種子創世記

 神は一つの種を落とされた。

 太陽と大地のみが存在する地に、落とした衝撃で水が涌き出でる。衝撃で大地に切れ目が生じ、切れ目に水が流れ川となった。種は水に浮き、川を流れていく。川は衝撃で出来た川であったため枝分かれが多かったが、種は全ての枝を通ったという。

 また衝撃は山と谷を作り、大地の欠片は神の目を傷付けた。目から溢れた涙は種を落とした地の真裏に落とされて、それは海となった。海は大地の九割を満たしてしまった。

 水分を含んだ種は朝と夜を七度経験して根を生やした。根は掛かった日数と同じく七本あり、長いものも細いものもあった。さらに朝と夜を七度経験して初めの葉を生やした。これも七枚である。

 葉と根を生やした種子は、徐々に成長しながら川を流れていく。種子は光と水があればどこまでも大きく成長する。

 三六五日が経った頃、種子は海へと到達する。種子は空に届きそうなほど大きく育っていた。

 根は広大な海の水を吸い、海を七つに分ける。大地を覆う海はこれで七割になった。種子は栄養過多になり、葉は外れた。葉は海に沈み、一部は陸に打ち上げられそこでさらに芽吹いた。この種子の葉は、葉から新たに植物を生み出すことが出来た。この種子は神の種子であり、全ての植物の元となり得る種子であった。故に、辿り着いた場所で葉はその土地に合った植物となった。

 一つの根は海の塩で枯れかけた。枯れないために、根は足となり、下から上へと形を作り上げる。そして生物が生まれた。その際、海の成分を多く取り込んだために、生物は神の姿に似ていた。神に似て非なるものを、神は『ヒト』と名付ける。

 他の六本の根は海で朽ちた。塩で枯れて細かく千切れてしまった。しかし千切れた根は海の成分で変質し、小さな生物となり、魚となった。一部の根は打ち上げられて虫や鳥や動物となる。

 最初のヒトは、一人しかいなかった。虫や鳥はたくさんいたため、『絶望』『寂しさ』『嫉妬』を知った。そしてもう一人を望んだ。ヒトの右足は根のままであった。その根を切り落とし、海へと投げれば新たなるヒトが生まれるのではないかと、ヒトは足を切り海へ投げた。そのときに『痛み』を知った。新たにヒトが生まれた。ヒトは『喜び』を知った。

 二人のヒトは生活できる場所を求めた。その頃にはヒトは『欲』を知り、美味い食料や安全な環境も求めていた。辿り着いたのは島国だった。そこでは米と呼ばれる植物が多く生えていた。やがてヒトはその地で子を産み、子は孫を産んで繁栄していく。

 時が経ち、ヒトは増えすぎた。『欲』を満たすために、必要以上に植物を取った。植物が減ることで、虫や鳥や動物が減っていった。ヒトとヒトも食料を巡り争いを起こした。『欲』は留まることを知らなかった。

 その時、大地が揺れて海が大地へと押し寄せた。ヒトは海へと還り、数が減った。ヒトは再び繁栄することを目指した。

 植物も動物も、元は一つの種子である。過ぎたことを行えば、神の涙が大地を飲み込むであろう。

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