第13話 土産

ケルクの屋台のリニューアルオープン初日が大成功をおさめたのを見て満足したフォルテは、自分のお土産を何十本か購入して領主の館へと帰って来た。


もちろん、酒を飲んで少し顔の赤くなった付き添いの兵士を連れてである。


館へ入ると、フォルテはそのままガストンの執務室へと向かう。


その後ろで、付き添いの兵士は、フォルテに勧められるがまま欲望に勝てずに酒まで飲んでしまった事で、これから会う領主ガストンになんと言おうかと冷や汗を流しながら考えていた。


「安心しろ、悪いようにはしないさ」


その様子を見て、フォルテは兵士にそう笑いかけた。


執務室に入ると、ガストンとケミーニアはまだ仕事をしていた。


「なんだ、まだ仕事をしていたのか」


フォルテの言葉に2人は顔を上げて苦笑いである。


本来ならここまでカンヅメになる必要はないのだが、ケミーニアがフォルテの為に予定を繰り上げて城に帰る為、急ぎでしている作業なのだ。


しかし、フォルテとしてはそんなの知った事では無い。


なぜなら、フォルテの為と言いながら、その実フォルテによって国が混乱しない為にケミーニアが自分から行っている事だからである。


「ガストンよ、土産を持って来てやったぞ、それでな、これを食いながら少し相談があるのだがな?」


「相談ですか? お土産とは、うちの領にそのような名物はありましたかな?」


ガストンはフォルテが、出かけたのは昼食のためだと思っている。


フォルテが何をして来たかなど知らないのだから、自分の領の名物を想像するのも仕方のない事だろう。


「いや、これは今日俺がテコ入れした屋台の串焼きだ。ただな、これを作る為にこの兵士の鎧を使ってしまった。だからコイツにこの串焼きと同じ価値の鎧と褒章をやってくれ」


フォルテの言葉に後ろにいた兵士はピンと背筋を伸ばした。


「屋台の串焼きの価値ですか?」


ガストンは更に首を傾げる。


この街の屋台の串焼きのイメージは安かろう悪かろうである為、新しい鎧分の価値さえない。


そのイメージでは報酬と言う話になる意味が分からないだろう。


「まあ、休憩がてら一緒に食おうではないか。美味いぞ!」


フォルテは空いているテーブルの上でお土産の軟骨つくね串の箱を広げた。


まだ買って来てすぐなので温かい為、再度温める必要はない。


ガストンは朝の事でフォルテの味覚を信頼している為、庶民の食べる物であろうとフォルテがそこまで言うのであればと興味を持って作業を止めてテーブルに向かった。


「変わった串焼きですな」


「ああ。ただ、これにはまずは酒を用意したほうがいい」


「なるほど?」


ガストンはフォルテの指示通りに使用人に酒を持って来させる。


「ガストンだから特別に面白い飲み方を教えてやろう」


運ばれて来たのはウィスキーであった為、フォルテは更にコップに水を持って来させると、その水を空気中の二酸化炭素を凝縮して錬金術によって錬成、結合する。


錬成反応によりピカッと光った後、グラスの水は先程までとは違い、水とは違う不自然な泡が浮かんでは消えた。


その水をウィスキーと氷を入れたグラスに適度な量で注ぐ。


割合は黄金比の1:4だ。


「ああ、いい酒なのに、薄めてしまうのですか?」


庶民では水割りを飲む事もあるが、貴族では薄めるなどケチくさいと言われて他の物で割る事はない。


それに、今回ガストンはせっかくならと、高価なウィスキーを出して来た。しかし、フォルテにはそんな事は関係無かった。


出来上がったのは、二酸化炭素を結合させた水、つまり炭酸水で割ったウィスキー。


《ウィスキーハイボール》である。


出来上がったハイボールを片手に持ってフォルテは軟骨つくね串を一口齧って肉の旨さと軟骨の食感を楽しんだ後、一気にハイボールを喉へと流し込んだ。


「あ゛ー、美味い!」


フォルテの行動を真似て、ガストンも同じように軟骨つくね串とハイボールを口にした。


「これは!」


ガストンは軟骨つくね串とハイボールを交互に見ている。


「この、シュワシュワとした爽快感、この酒の飲み方は酒を楽しむためではなく食事を楽しむ為の物ですな!」


じっくりと観察した後、待ちきれないとばかりに次を齧り付いた。


「どうだ。この価値がわかるか? これが屋台で食べられる事が重要なのだ。こうして買って帰る事ができる事で、行商人なども道中に食べやすいからこぞって買うだろう。そうすればこれは街の名物になるぞ。発祥の地と言うのはそれだけで強みだ。この美味さが話題になれば、これを求めてこの街へ来る者も現れる。そうすれば、街はもっと豊かになる」


一つの名物が有名になればそれだけで町おこしになる。


後はどうやって展開していくかによるが、この軟骨つくね串が世界的に有名になれば、この街の発展に一役買う可能性は大いにある。


ガストンはフォルテの言った事を正しく理解して、町おこしの計画を立てるだろう。


領主なのだからそれくらいの能力はあるはずだ。


軟骨つくね串の制作の為に鎧を差し出した兵士は、新しい鎧と、褒章をもらう事になる事だろう。


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