第14話 満足度
フォルテは馬車に乗っていた。
ガストンの街でのケミーニアの仕事が終わり、この国の王に会う為に移動している最中である。
旅の世話をケミーニアが焼いてくれるものの、やはりエルフであるケミーニアが準備しているものでは満足できない。
主に食事が。
食を楽しむと言った文化がないエルフは、日に一回野菜をそのまま食べるのみだ。
野菜炒めにすらしない。
そして馬車で移動する御者やケミーニアの家来達も、ケミーニアに遠慮して隠れて干し肉を食べるなどですませている。
そんな旅はゴメン被ると言って、フォルテは旅が始まって早々にキレたのであった。
それ以降、フォルテは移動中に動物を見つけると狩りをして食糧を確保していた。
本日も、大きなイノシシを狩って来て丸焼きにしている。
ガストンに塩と胡椒を分けて貰っているので、多少の味付けはできるが、調理と言うには程遠い。
フォルテがそのイノシシを一頭ペロリと食べてしまう姿を見て、ケミーニアは物凄い顔でフォルテを見た。
「どうした?」
「いえ、よくそのような量を食べられるなと思いまして……」
フォルテは、ガストンの街にいた時と違って、旅に出た後はこの様に大喰らいになっている。
ケミーニアとしては、この量がどこに入っているのかと不思議であるのだろう。
しかし、フォルテはケミーニアの質問の意味を勘違いして返答した。
「こんな物はいくら食べても腹が満ちるだけで満足せんからな」
「満足……ですか?」
食欲と言う感覚がないケミーニアにとって、食事での満足度など意識したことのない物であった。
「そうだ。満足とは腹が満たされるものだけではない。どれだけ美味いものを食べたか。心がいっぱいになり満足できれば、満腹にならなくても満たされるのだ」
逆に飢餓状態が続けば体は一度の食事で満足感を得る為に満腹中枢を壊して体に蓄えようとする。
食による満足感とは2つあるのだ。
これは、貧乏な方が肥満が多いと言う事にもつながっているだろう。
人は、美味いものを楽しんで他人と食事をした方が食べる量は減る。
胃の容量ではなく、食事による満足度が高まるからだとフォルテは思う。
「お前も、食事の楽しさを知ればわかる様になるのだろうけどなぁ」
フォルテはそう言って、周りを見渡すと、こちらを覗いていたケミーニアの家来達は慌てて隠れた。
ケミーニアの家来達は、ケミーニアがどれだけフォルテを崇めていようと、ケミーニアを差し置いてフォルテと楽しく食事を楽しむ事は遠慮しているのだ。
だから、フォルテはこの旅の間、食事を楽しむと言う事はできない。
「食事を、楽しむですか……」
ケミーニアは、フォルテとガストンの食事風景を思い出す。
フォルテは自分が食べるのもそうだが、ガストンが自分の
そして、この旅が始まってからは、フォルテはあの様に楽しそうにする姿は見ていない。
「満足感ですか……」
フォルテの言葉は、ここ数日食事を摂っていないケミーニアの心に、シコリを残したのであった。
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