第11話 軟骨つくね串

ケルクの屋台まで戻って来ると、閉めていた屋台を再び開店する準備をする。


「さて、今回はちょっとだけズルをするぞ!」


ウキウキのフォルテであるが、後ろで屋台の店主が自暴自棄になってどうにでもしてくれといった様子で頷いている。


フォルテは屋台にある焼き場を錬金術によって理想の形へと変える。


これまでは焚き火による鉄板調理だったのだが、木炭による直火、遠赤外線調理ができるものへと改造する。


用意してあった薪も、全て質のいい木炭へとで錬成してしまう。


新品の薪が、炭に変えられた事に、自暴自棄であったケルクは更に顔を青くさせた。


ケルクとマテナは、明日からの生活が立ち行かなくなる恐怖に震えた。


そんな事など露ほどにも思ってないフォルテは、青い顔のケルクを呼び寄せ、木炭への火のつけ方をレクチャーしている。


炎を上げず、赤く色づく木炭の用意ができると、フォルテは、鼻歌を歌いながら軟骨つくね串を並べていく。


弱火でじっくり焼き上げ、溢れた脂が木炭に垂れて焼けるいい香りが周りに漂う。


フォルテは、この香りを誰にも渡したくないとばかりに思い切り匂いを吸い込むが、実際にそんな事は無理である。


表面の色が変わり、段々と焦げ目がつき始めた頃、隣で見ていたケルトが初めて質問をして来た。


「こんなに長時間焼いて大丈夫なんですか?」


「この木炭でじっくりと火を通すことによって中がふんわり外は程よく香ばしい美味しいつくね串ができるんだ」


そろそろ火が通った頃だろうと、フォルテは生唾を飲み込んだ。


「ケルク、これがこの串の料金だ」


フォルテは、ケルクにこれまでの串焼きの5倍の値段を渡す。


「こんなに! これでは誰も買わないのでは?」


「そうだな。今までケルクの串焼きを買っていた客は買わなくなるだろうな。だけど、大丈夫だ。そうだ、ケルクとマテナも食べてみろ。これは俺の奢りだ」


先程の金額の2倍をケルクに渡して、ケルクとマテナに一本ずつつくね串を渡した。


ケルクとマテナは渡されたつくね串を本当に食べるのかとジロジロと見ているが、フォルテにとっては昼を食べるのをスルーして、待ちに待った食事である。


一口目を勢いよく齧り付いた。


ほろほろとした肉のほぐれる柔らかな食感。


溢れる肉汁。


そして、軟骨の食感がコリコリと楽しい。


本当はもっとスパイスを入れたい所だが、塩だけと言うシンプルさが、肉の味を最大限に活かしてくれる。


まあ、その肉の味はいい肉の脂を混ぜ込む事でドーピングして、あのカスカスで脂を絞り取られた焼きすぎの串焼きと比べれば月とスッポン。


勿論、つくね串が月である。


フォルテが幸せそうに食べる様子を見て、ケルクとマテナも目を瞑り、意を決して一口食べた。


2人とも、咀嚼した途端に目を見開いて自分の持っている串を見た。


残り二つ残っているつくね串は、見た目は相変わらずであるが、自分が知っている串焼きと全てが違っていた。


串焼きの一口などすぐになくなってしまうので、次の一口を口に放り込む。


フォルテに指示されて、二つ目は変な草を混ぜた怪しい物だったが、先程の衝撃の味が忘れられず、迷いなく口に入れた。


二つ目の味は、先ほどとはまた違った衝撃があった。


勿論、先ほどと同じ旨味は溢れて来るのだが、それと同時に爽やかな香りが鼻から抜けていくのだ。


それによって、一口目のコッテリとした口がサッパリとしてくれる。


3口目は、一つ目と同じである。


しかし、そうすると、口の中はコッテリとした感じで終わってしまう。


先程の二つ目を最後にした方がいいのではないか?とケルクが考えていた時、フォルテがしたり顔で声をかけてきた。


「ケルク、最後はこれを飲むんだ」


「は、はい!」


フォルテが渡して来たのは、先程つくねを作るのに余った酒の水割りだった。


フォルテとしては、炭酸で割りたい所だったが、無いものは仕方がないのだ。


ケルクは一気に酒を煽り流し込むと、豪快に「プハ」と息を吐いた。


「どうだ、美味いだろ?」


「はい!」


マテナもケルクの隣で何度も頷いている。


「これは今までの客に向けた物じゃない。ただ安い物を食べる人を相手にするんじゃなく、金を出して美味い物を食いたい人を相手にする商売をするんだ。勿論、酒もセットで販売するんだぞ。水割り込みだとこの値段だな」


フォルテが提示したのは、およそ屋台の値段ではなかった。


ケルクは確かに美味いが、そんな高値で売れるのだろうかと疑問に思った。


「ほら、客が来たぞ?」


フォルテが見る先には、いつもはここで食事を買わない人達が団体でやって来ていた。


鎧を着てない兵士を先頭に、町の兵士達がケルクの屋台に向かってやって来ていたのであった。

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