薔薇姫と氷皇子の波乱なる結婚

マサト真希/メディアワークス文庫

薔薇姫と氷皇子の波乱なる結婚 大ボリューム試し読み連載

第一章 逃げてやりますわよ、こんな結婚から

第一章 逃げてやりますわよ、こんな結婚から(1)

 ──逃げてやる。


 走り出す馬車の窓から、アンジェリカは顔をのぞかせる。


ひめ〟との呼び名をいただく彼女はその名のとおり、真紅の薔薇のごとき赤毛と強い意志を秘めたあかい瞳の、はっと息をむような美貌の持ち主だった。


 彼女が振り返る背後で、けんろうな城壁が馬車の走りとともに遠ざかる。


 王宮とは名ばかりの、あれはとりでだった。十九歳のときスラムから連れ出されて以来、三年ものあいだ閉じ込められていた、窮屈で寒々としたろうごくのような砦。


 ようやく出られたとはいえ、これはべつの牢獄への移送にほかならない。



「……絶対に」



 美しい赤毛をなびかせながら、アンジェリカは自分に誓った。



「逃げてやりますわよ、こんな結婚から!」




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